本で釣れました~冒険者令嬢は恋愛よりも本をとる
東川善通
冒険者令嬢はリリースを希望します
夢見た時期が私にもありました
いつか、王子様に一目惚れをされて、色んな障害を乗り越えて、王城暮らし。そんな暮らしに憧れたことがありました。えぇ、ありました。
現実にもなればなと思うこともあった。当事者になるまでは。
妄想最高! 王子様との恋愛なんて夢を見るだけでお腹いっぱいです!
私、アルセリア・スティングラー18歳は子爵家の生まれです。爵位を下から数えた方が断然早い下位貴族。
けれど、領地も持っている。まぁ、それを言うとそれなりにいい暮らしができるんでしょと思うでしょ。できないわ。だって、私の家、貧乏だもの。税収は全て領地の経営行き。領民まで貧乏にさせるわけにはいかないからね。しょうがないわ。勿論、国に税を納めてるけど、それもギリギリの金額。
そのせいで、自分の服を買うのも趣味である読書をするのも、一苦労。だって、お金がないんだから。そんな、そんな私に何故なのでしょう。
「どうか、俺の妻になってもらえないだろうか」
そう告白してきたのは我が国フラメンディナの王太子であるレオカディオ・リヴァングストン様。ターメリック色の目に緩く癖の入った金糸雀色の髪。お兄様を銀髪緑眼美形とするならば、彼は金髪金眼の美人と言える。そして、私の手を取り、その甲に妻になってほしいとそう言って唇を落とすかの方はまさに王子様。本物の王子様ではあるけれど。
あ、もしかして、誰かと勘違いされているのではない??
「え、と、どなたかとお間違われてるのでは?」
「おや、酷いことを言うね。間違いではないよ。今告げたことはアルセリア・スティングラー嬢、君宛だ」
ふふと笑いながらも私の手を離してくれないレオカディオ殿下。
傍から見れば美しい光景かもしれない。けれど、当事者からすると何とも言えない圧力が見える。だって、王子様だよ。覚悟してたとはいえ、なんで王子様がこんなチビのぺったん胸の貧乏娘に告白するの!? あ、自分で言って、ぺったん胸はへこむわ。事実なんだけど、事実なんだけど悲しい話よね。
「アルセリア嬢、返事はいただけないのかな」
疑問符ないですけど。てか、もうイエスしか受け取る気ないじゃない!
「申し訳ございませんが、私の家は貧乏なので殿下と並べるような立場では」
「そんなものは問題ないよ。弟の相手も孤児だというからね」
まさかの孤児と同レベルとされてしまうとは。いや、ある意味では間違ってないけど。でも、やっぱり、この理由では断れないのね。
「ですが、私は貴族でありながら学校にも通っておりませんし」
「通いたいのであれば、今からでも通えるように便宜を図ろう」
「いえ、結構です」
思わず、即答してしまった。だって今さら通うなんて恥ずかしすぎる。
そもそも勉強はお兄様や本から学んでますし、今のところ問題なんてないもの。
「さて、次は何かな?」
にこにこにこにこ。楽しそうに微笑んでいるレオカディオ殿下。これ、楽しんでるわね。そうとしか思えないもの。
「……私はレオカディオ殿下のことをあまり存じ上げません。なので、頷くことはできません」
婚約だの、結婚だのしたら、やっかみも多くなるだろうし、挨拶回りとか苦手だし、色々嫌なことはあるのよ。でも、馬鹿正直に殿下に言えるわけないし、これが適当かなって思うんだけど。
ちらりと見た殿下はきょとん。それから、ふわりと笑う。なぜ?
「じゃ、俺のことをよく知ってくれたら、構わないというわけだね」
任せてくれと言うレオカディオ殿下。待て、そういうことじゃない。そういうことじゃないのに話は勝手に進んでいく。
あー、いっそのこと、あの頃に戻れたらやり直せるのになぁと私はレオカディオ殿下のおでかけ計画を聞き流しながら、遠くを見つめた。
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