第44話-壁は壊すためにある
ミルドが肩の傷を押さえながらギロリと私の方へ視線を向けナイフを構える。
「魔法使いのくせにしぶといな……だが」
そして再び【
「リンさん、私の拘束を!」
「さっきからやってるんだけどこの手のロープが外れなくて……!」
リンはフレンダを拘束してるロープを解こうと格闘しているようだった。
「【
私はどこから来るか分からないミルドの攻撃を少しでもそらそうと自分の周りに風の壁と形成し、いつでも【
「カリス! ソール テンペスタースよ!」
フレンダが大声で私へ何かを伝えてきたのだが、私にはフレンダが言っているその単語の意味を理解できなかった。
「えっ? なにっ!?」
「サンダーチェインの発動キーワード!ソール テンペスタースって紡いで!」
フレンダが言っている意味がわからずフレンダへ視線を送るが、フレンダは黙って頷くのみ。
(ソールテンペスタース……サンダーチェインを?……っ!? もしかして古代語!?)
フレンダが言っていることは、授業では習ったことがある。
本来、魔法を行使するための
だが資料が残されていないため、その正式な読み方はほとんど解明されておらず、今この世界の魔法は今の形で落ち着いているのだ。
「やっ、やってみる……!」
数秒毎に私の周りに作った風壁に向けてミルドが短剣で攻撃を加えてくる。
その度に風壁により弾き返されているが、風壁は徐々に薄くなっておりそろそろ破られてしまいそうだった。
私は念のためリンとフレンダに掛けた【
そして……
「――【
私がその
だが、その驚愕も次の瞬間までだった。
キィィンと部屋全体に嫌な音が響き、私自身を発生源として四方八方へと巨大な稲妻が落ちた――
ドォォン!と腹に響く音を残しながら、部屋中が魔法の光で真っ白に染め上げられ視力が奪われる。
続いてガラガラと壁が崩れる音や窓ガラスが床に落ちて割れていく音が立て続けに聞こえてきた。
(……なに……この威力…………)
むしろ魔力の残りが少なかったので、意図的に先程より威力を抑えようとした。
だが、発動してみれば先ほどとは比べ物にならないほどの雷撃が四方へと飛び散ったのだった。
その速さも大きさも威力もまさに桁違いだった。
(これが……本来の【
ハッと、周りを見回すが部屋中砂埃で何がどうなっているか分からない。
「リン! フレンダ!」
私は二人に駆け寄り、頭痛を堪えながらもフレンダの手を縛っている魔封を【
「はぁはぁ……魔力、使い切っちゃった……やば」
「カリス! 大丈夫っ?」
「ちょっとクリス……ほら、来なさい」
「おわっ!?」
リンが支えようして手を伸ばしかけていた私の身体が、フレンダによって急に逆方向へ引っ張られる。
そしてバランスを崩したところに再び唇を奪われた。
もとい、魔力を分け与えられた。
「なっ……!?」
リンが口をパクパクさせながら顔を真っ赤にしている。
ほんの少しだったけれど魔力が戻り、ふらついていた意識がはっきりしてくる。
「ちょっ、違うわよ、これは魔力を分け与えるための魔法!」
「そ、そうなのリン、フレンダはさっきもこうやって……」
「さっきも!?」
何故か砂埃で何も見えない部屋の中心で、言い訳じみたことを言う私とフレンダ。
「それよりクリス……リンさん、三人を」
「あ、そうだった」
「二人はとりあえず拘束魔法で動けなくしたんだけど……あれ?」
徐々に部屋中に舞い上がった砂埃が晴れてきて、部屋の惨状が目に飛び込んできた。
「……あは、どうりで寒いと思ったら」
「これ、よく天井が無事だったわね」
リンとフレンダがそんなことを言うのも無理はなかった。
私達が居た部屋の三方を囲んでいた石壁が、魔法により崩れ落ちたのか、ほとんど無くなっており柱とその周りにかろうじて石壁が残っているだけだった。
もう一方の執務室があった方向の壁も当然のように姿を消しており、先の執務室の向こう側にある壁にもきれいに大きな穴が空いていたのだった。
ホド男爵とリック大臣はギリギリ【
まともに魔法を食らったと思われるミルドは、その上半身が真っ赤に焼けただれていた。
正直ちょっと目を背けたくなるような状態だったが、胸元が上下しているところを見ると生きているようだ。
(あとで回復魔法かけてもらえるよね?)
私はリンとフレンダに「これどうしよう」と声をかけた所で、廊下かガチャガチャと金属音が響いてくる。
「あ~多分あれ、全身鎧の騎士団だよ~」
「リン、どしよ……」
「うーん……一応これあるけど?」
リンが胸の間から巻物を取り出す。
(……まだ入れたままだったんだ)
「それ騎士団とやらに通じるの?」
「通じなかったら~カリスが『もっかいさっきのやっちゃうよ?』って言えば逃げだすよ~」
「…………」
それでいいのか?と突っ込みたくなったが、ちょっと今はそこまで元気がなかった。
私はベッドにボフッと座り、上半身を投げ出し騎士団が来るのを待つことにした。
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