第25話-罠に掛かった二人
「ん……んん?」
私はふと胸焼けがするような、なんだかもやもやとした気分になり目を覚ました。
外を見るとまだ真っ暗で、隣にはお母様が寝息を立てて眠っていた。
(……なんだっけ)
まだ布団に入って眠ってから一時間も経っていない気がする。
変なタイミングで起きてしまったせいか、すごく眠い。
トロンとまぶたが落ちてきて、そのまま目を閉じかけたところでハッと気づいた。
(――これ罠が発動している!?)
魔法の実験していた時、お父様に手伝ってもらった時の気分より更に気持ち悪い。
息をしているのに酸素が入ってこないそういう感じだった。
――というか部屋の中が少し焦げ臭い。
「【
魔法の淡い光が部屋を照らしだした。
その明かりで隣に眠っている母が「どうしたの?」と目を覚ました。
「……敵」
私はそれだけを伝え、お母様の頭からシーツを被せた。
そのままベッドの横に立て掛けておいた杖を手にとってベッドから降りる。
床がキシっと音を立てる。
素足のままカーペットの上に立って部屋の中を見渡す。
(誰も居ない……)
念の為ベッドの下や窓枠の外を確認するが人が居た形跡は無い。
扉のついていない隣の部屋。
寝室の隣にリビングテーブルが置かれている部屋があり、その部屋から寝室の間は扉が無い。
そちらもランプを消していたため隣の真っ暗な部屋だ。
その先、分厚い木の扉を隔てた部屋で父様が番をしてくれている。
リビングテーブルが置かれた部屋の様子にはお父様の方からは、多少の物音があっても気づかないだろう。
私は真っ暗な部屋の入り口で、今度は全力で【
寝室に入る前に見かけた四人がけのリビングテーブル。壁際には小さめの食器棚。
一つだけある窓際には化粧台が置かれており、窓も空いている様子は無ない。
窓の向こうから月明かりが差し込んでいた。
私は【
「――っ!?」
そこには黒い上下の服を着込んだ、いかにも暗殺者と思われる二人の姿があった。
二人は体格から男だろうと思われる。身体からプスプスと煙を上げて横を向いて倒れておりピクリとも動く気配は無い。
どうやら完全に意識を失っているようだったので、私はテーブルの反対側に周り、口元だけを隠している顔を確認した。
そのままなるべく物音を立てず、静かにお父様のいる部屋の扉を開いてソファーに腰掛けて本を読んでいるお父様に声をかけた。
「お父様」
「――っ!? どうした!?」
寝間着姿で杖までもって突然現れた私にお父様が振り返り、驚いた表情を向けてくる。
「縄を」
「――!」
私が短くそれだけ言うと、お父様は全て察してくれた。
お父様は素早く壁際の棚に入っている丈夫そうな長いローブを探し出してくれた。
◇◇◇
「……死んでいるのか?」
「【
お父様を暗殺者が倒れているテーブルまで連れていき、横たわる二人を確認してもらった。
そして私の言葉にお父様は静かにうなずき、ロープを手に暗殺者の両腕を後ろ手で縛り始めた。
「クリスはセシリーを連れて下へ、マルを呼んできてくれ」
私はお父様の邪魔にならないよう、「わかりました」とだけ返事をして寝室へと戻る。
するとお母様がシーツから少しだけ顔を出して「だいじょうぶ?」と声をかけてくれた。
(お母様かわいいな……)
こんな状況なのに、お母様の少しお茶目な姿をみて安堵を覚えた。
私はお母様の手を取り、スリッパを履いて二人でリビングを通り、廊下へと出た。
廊下は所々ランプが置かれているが、あまりよく見えない。
暗闇で
◇◇◇
階段を降り始めてすぐ、下に居いた巨大なウサ耳の人が私の存在を感知したのか、突然立ち上がりこちらへと駆け上ってくる。
暗闇の中、ウサ耳のシルエットが自分たちに向かって走ってくる光景に「ヒッ」とお母様が声を出した。
その瞬間、どこからともなくウサ耳の集団が現れて私を取り囲んだ。
取り囲んだというより、私達を背にして円陣を組むように外に向かい一斉に短刀を構えている。
「カリス、だいじょうぶ?」
そのうちの一人、リンは私とお母様にぎゅっと両手を回して抱きついてくる。
これでは逆に逃げられないのではと思ったが、今はそれどころではなかった。
「今お父様が侵入者を縛っています。マルさんを……」
そこまで言うと私を取り囲んでいたウサ耳が一対、目にも止まらない速度で二階へと消えていった。
(あ、マルさん居たんだ……)
「えっ、カリスだいじょうぶなの~? 怪我してない~? 痛いところは~?」
リンが身体をペタペタと撫で回してくる。
「あっ、私は大丈夫……んぅ……罠に掛かったの……っていつまで触ってるの」
「そっか~……はぁ、よかった~。それで、上に~?」
リンがやっと離れてくれて、私とお母様を一階廊下においてあるソファへと案内してくれた。
「うん……そうなんだけど、リンも私と一緒に上に戻ってくれる?」
「いいけど~どうしたの?」
「えっと、ちょっと……ナックさんお母様をお願いできますか?」
私は背を向けている巨大なナックさんにお母様をお願いすると、リンと手をつないで寝室へと戻っていった。
◇◇◇◇◇
「どういうこと?」
リンはグルグルに縛られ猿轡をされている二人の暗殺者に視線を落とし、少し強い口調で私へ訪ねてきた。
「判らない。でも私の罠に引っ掛かったということはこの部屋に侵入しようとしたのは間違い無い」
マルさんとお父様は私とリンの話に耳を傾けている。
「……ドルチェさん……ナルさん……どうして」
私は二人の暗殺者へと声をかけるが未だに意識は戻っていないようだ。
マルさんが「そのうち起きるだろうと」と言うので、リンと二人でソファーへと腰掛け、お父様とマルさんも倒れている二人を囲むようにソファを配置して腰掛けた。
「……エアハルトは?」
「わからない。二人しかいなかった」
リンはまだ怒りが収まらないようで、いつもとは違う口調のままだった。その両手は膝の上でギュッと握られている。
「リン……」
私もリンの背中を摩りながらも「どうして二人が……」という疑問で頭の中が一杯だった。
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