振られちゃった…… (夏美パート)

 あの、告白の後から、冬彦君からは何も言ってこない。

正直、失敗だったかもしれないとずっと思っている。

あそこでいきなり告白じゃなくてお友達になって欲しいとかそれだけでよかったかもしれない。いきなり段階を飛ばし過ぎたのかもしれない。


「ねぇねぇ、小寺さん黒田君からのお返事まだなの?」

「私、そこにいなかったけど、凄かったらしいね、クラスのみんなの前で大声で」

「や、やめてくれないかしら?」


 昨日からこの調子だ、友達が次々に私の事を囃し立てる、返事はまだ受けてないのかと、そればかりだ、正直思い出すと顔が赤くなるのでやめて欲しい。


「でもなんで黒田なの? あいつシスコンじゃん」

「だよね、いつも妹がー、妹がー、って付き合い悪いし」

だけど、彼氏ってなるとねー」


 別の女友達が冬彦君の悪口を言う、ちょっとイラってしちゃう。

冬彦君の妹さんはまだ小学生で一人じゃ可哀想だから、冬彦君はお兄さんとしていつも気にかけてる。それはとても立派だし、尊敬できるいい所で本当に凄い人だ、付き合いが悪いのも仕方ないもん。そんな風に話をしていれば今日も短縮授業の日程が終わり放課後になる。


「小寺、ちょっとそこまでいいか?」

「ふぇ!? あ、黒田君、う、うん、大丈夫よ」


 放課後の帰りの準備をしていたら後ろから声をかけられる、冬彦君だ、もしかして告白の返事!? ど、どうしよ、心の準備がまだ、でも、今聞かないとだよね。

返事もしちゃったし、返した返事を聞いて冬彦君はもう教室から出ていってるし。

慌てて、冬彦君を追って、ついたのは少し人気のない階段の踊り場だった。


「悪いな時間貰っちゃって、告白の返事なんだけど」

「う、うん、大丈夫よ、告白の返事よね、聞いてあげるわ」


 ああああ! なんで、もっと可愛く喋れないの私、こんなの冬彦君も絶対嫌だってどうしよう、絶対振られちゃうよ、いつも気を張りすぎてるからだぁ。


「その、俺、家の事とか妹の事とかあるから、小寺とは…………付き合えない」


 やっぱり、そっか迷惑だったよね、いつも家の事や妹さんの事で忙しいのに。

そこに私なんていても迷惑なだけだよね。


「それにほら! 小寺なら俺なんかよりもっと良い人と付き合えるって、サッカー部の先輩が小寺の事が好きだって言ってたぜ、なんでもプロ志望らしいぞ」


 冬彦君が何か言っている、サッカー部の先輩でプロ志望? そうじゃない。私が好きなのはいつも妹の為に家の為に頑張り続けて、友達の為にも一生懸命に頑張れる、そして見ず知らずの人にも手を差し伸べれる。そんな優しい冬彦君なのに。


「ねぇ、黒田君」

「な、なんだ?」

「付き合うとかは別にして、私の事を女の子として見た時に好きって言える?」

「え、えっと……ごめん、よくわかんねぇ」

「そっか、じゃあ嫌い?」

「…………嫌いではない、と思う」

「よかった……私、待ってるね、いつか黒田君が私の事見てくれるようになるまで」

「小寺……」


 それだけ言って私は冬彦君との話を終わらせ階段を降りていく。

何か言いたげに冬彦君が声をかけてきてくれるけど、今振り向いたらダメ、凄く泣きそう……というかきっと泣いてる。こんな顔、冬彦君に見られたくない。


「よう、小寺さん、どうして泣いてるの? 小寺さんに涙は似合わないよ」

「どちら様ですか?」

「俺、サッカー部の茂武もぶって言うんだ、ハンカチ使う」

「結構です、ほっといていただけますか」

「というか小寺さんって超可愛いよね、俺前から気になってたんだよ、よかったらさ連絡先とか頂戴よ、夏休み一緒にどっか行かね?」

「ナンパですか? すみません、私好きな人がいるのでそう言うのやめて頂けます」

「それって、黒田君でしょ、振られたんじゃないの? 泣いてるし」

「確かに振られました、でもそれで好きじゃなくなる理由にはなりませんし、黒田君に嫌いと言われたわけじゃないので、それでは」


 私が階段を降りた先に年上と思われる男性が立っていた、セミロングのいかにも軽薄そうな男、いきなり声をかけてくるなり連絡先を聞いてくる、この手の軽薄な男が一番嫌いだ、街でも大学生のナンパがよくやってくる。振られた事を言い当てたのは意外だ、普通はどうしたのと聞く者じゃないか、まぁこんな人はどうでもいい。

適当にあしらって、今日はもう帰ろう、何もする気も起きないもん。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る