第21話 最早別人の領域だよ

「それじゃあ行ってきます」


今日も爽やかな朝だ。

昨日みたいに面倒を押し付けてくる女も居ない。

ドンッ


「痛っ」

「ごめっ·····んって」


そこに居たのは三橋愛梨だった。

昨日までの巻き髪はストレートに、厚かった化粧も薄くなっている。

正直に言えば別人だ。


「何してんだよお前」

「美月ちゃんがここが家って言うから·····」

「あの野郎·····」


俺の家は誰でも来ていい訳じゃねぇぞ。

後でみっちり説教だな。


「んで? 俺にどうしろと」

「一緒に行こ」


借りてきた猫のようだ。

元々の性格か? これ。

だいぶ無理をしていたようだ。


「どうして家まで来たんだ?」

「色々聞きたいことがあって·····」


どうしよう、逆にやりずらい。

急に肉食獣から小動物みたいになりやがって。


「凌太の事か?」

「うん」

「教えられる範囲でな」


本当に二重人格を疑ってしまう。


「誕生日」

「5月25日」

「好きな食べ物」

「唐揚げ」


プロフ帳かよ。

小学校で一度は流行るよね。


「もっといい質門してよ」

「うーんと、今まで告白された回数」

「知らないな、ちなみに俺は0」

「·····」


ちなみにちなんでみた。

無反応、ちょっと悲しい。


「じゃあ好きな子は?」

「知らないな·····」

「何にも知らないじゃん」


そう言えば一度もそんな話になったことないな。

気になるし聞いてみるか。


「聞いといてやるよ」

「うん!」


誰だよこいつ。

そうこうしていると学校に着いた。


「おっはー」

「·····」


無視、悲しいよ俺。

まだ美月も凌太も来てないらしい。


「·····おはよう」

「誰·····、転校生?」

「私だよ、三橋愛梨」


クラスがざわざわし出す。

何となく雰囲気で感じ取ってやれよ。

自分から名前言うとか、恥ずかしいだろ。


「おはよ、ユウキ」

「おう」

「それと·····、三橋?」

「──っ! 凌太?」


そんな驚かなくてもいいだろ。

昨日までは普通に話してたじゃん。


「変わったなお前、そっちの方が良いよ」

「ほ、本当?」

「うん、可愛い」

「うぅぅぅ·····」


顔を真っ赤にしてパンクしてしまった。

この姿は素直に可愛い。


「みんなおはよー」


続けて美月も入ってきた。

変わり果てた三橋の姿に当然驚く。


「愛梨ちゃん? 変わったねぇ」

「もっと違う声掛けてやれよ」

「あれー、ユウキ! なんか久しぶり」


こいつとは約二日ぶりに話したことになる。

基本的には毎日話すので、珍しい。


「じゃ、じゃあ席に座るから·····」


そそくさと三橋は席に座ってしまった。

顔を伏せているが、表情は読める。

照れてニヤニヤしてるだろう。

俺も席に着くことにした。


「クズ君、また何か企んでる?」

「おい、まだクズ残ってるぞ」


小倉が話しかけてきた。

初めてだ。

てか呼び方、昨日はゴミクズだったから一歩前進はしてる。


「まあな」

「へー」


こうして当たり前に会話が出来ているのも、感慨深い。

初対面が地獄だったもんな。


「第一ステップ、完了」


まずは凌太に三橋を意識させる。

これは完璧にこなせた。


「私も頑張らないと·····」


次は私が頑張る番だ。

















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