第1話
それから、今日の掃除の目標を、この部屋から彼の痕跡を消すことに決めた。
彼がよく使っていたバスタオルを捨て、洗濯カゴに入っていた彼の下着を捨て、残り少ない彼の洗顔フォームを捨て。それと共に、私の中から何かが削り取られていく。何なのか分からないそれは、少なくとも残しておくべきものではないのだと感じた。
洗面所から彼の痕跡を消し終わると、次は台所に向かった。
お皿などは二人で一緒に使っていたから、彼のものだとは言えなかったが、彼のものでないとも言えなかった。しかしお皿を全て捨てるわけには行かないので、とりあえずペアのマグカップだけは捨てることにした。二つを合わせるとハートの模様になるというそれは、今の私にはなかなか痛いものだった。
マグカップを捨てる瞬間、それで紅茶を飲んでいる彼の姿が頭に映った。私が紅茶を好きだと言ってから、紅茶にハマった彼。私よりよっぽど詳しくなって得意そうに語っている姿は、どこか可愛かった。
幸せな思い出は、いつまでも幸せなままだと思い込んでいた。でも傷ついた心で思い出せば、傷がついた思い出になってしまう。そんなことを今まで知らなかった私の幼さが、今はとても恨めしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます