第1話




そして今、ここに至る。私はまだリビングから動いていない。立ってすらいない。


なんだか今は全部が面倒だ。でもこうやって一人で俯いているのだって、それはそれで疲れる。何かしたい。気が紛れて、スッキリできる何か。



その時、ふと机に散らばったチラシが目に入った。


そうだ、掃除をしよう。

普段はどうせなかなかやる気が起きないのだから、こんなときにやってみるのもありかもしれない。


私はゆっくりと立ち上がり、初めに洗面所へ向かった。




洗面所は掃除をあまりしない場所で、結構汚れが溜まっているのを知っている。今までは見て見ぬふりをしてきたが、いい機会だから綺麗にしてしまおう。



まずはいらないものをゴミ袋へ。

使い終わった歯磨き粉の容器、もう使っていない剃刀、壊れた洗濯バサミなどをどんどん捨てていく。なんとも気分がいい。いらないものを手放す快感はなかなかのものだ。



と、そこで赤いものと青いものが目に入った。歯ブラシだ。


二本セットになっていたのを、私と彼の二人で使っていた。寝ぼけた彼が私の歯ブラシを使おうとするのを止めたのは、一回や二回ではない。その度に彼は笑ってごめんと言った。

その笑顔が私は大好きだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る