拾壱 ライブ

66 前夜の巻き


 半荘はんちゃんの職業が忍者と決まったその夜、東郷から定時連絡が入るも、上からの連絡待ちで動く事ができないと説明を受ける。

 さすがに半荘が遅すぎると文句を言うと、ボートを1キロ圏内に進める救出案が出てると説明を受け、さらに韓国政府に韓国国民の救出を伝える案も出ていると説明する。

 だが、どちらにしても上の許可待ちなので、それまで待機と言われてしまった。


 話はそれで終わらず、東郷に「悪いニュースと悪いニュースがあるけど、どっちから聞きたい?」と言われ、半荘は「良いニュースは?」と質問している姿があった。

 当然、「良いニュースと悪いニュース」の二択は無く、悪いニュースが続く。


 そのニュースでは、韓国艦隊の増援が間もなく到着するとのこと。

 日本の艦隊の増援は遅れているとのこと。

 最悪のニュースに半荘はキレていたが、東郷は真面目な声で、「総攻撃が近々あるかもと」警戒を促していた。


 電話が切られるとジヨンも心配そうな顔になったが、半荘は考えても仕方がないからと言って、早く寝ようと促す。

 そんな事を言われても安心できないジヨンは半荘に詰め寄ろうとしたが、半荘は手をヒラヒラと振って、食堂から出て行ってしまった。



 その深夜……


 半荘の寝ている大部屋のドアが「ギー」っと開いた。


「何か用か?」


 半荘はドアが開く前から目が覚め、体を起こさないまま、入って来た人物に質問する。


「眠れないの……」


 入って来た人物は、当然ジヨン。

 肩を抱きながら、半荘が寝転ぶ二段ベッドの対面に腰掛けた。


「明日は何が起きるかわからないから、早く寝たほうがいいぞ」


 ジヨンに背を向けながら、ぶっきらぼうに話す半荘。

 そんな半荘に、ジヨンは震える声で尋ねる。


「……あなたは怖くないの?」


「さあ?」


「さあ?って……」


 半荘の返事にジヨンは納得がいかないが、それ以上の言葉が出ない。

 室内は静寂が流れ、しばらくして、半荘が体を起こす事で音を取り戻す。


「怖いと聞かれても、わからないんだ」


 半荘はジヨンと同じように、ベッドに腰掛け、目を見て喋る。


「そうだろ? 総攻撃と言われてもピンと来ない。自分の絶対的な死が明日にあると言われてピンと来るか? 俺は、そんな世界に生まれたんだ。いや、世界は言い過ぎか。世界には、明日、死ぬかもとおびえている人は居るからな」


 半荘は言葉を区切ると、ジヨンの手を取る。


「俺とジヨンは、平和な土地に生まれたんだ。だから、明日も、きっと平和だ」


「そんな事は……」


 ジヨンが不安を口にしようとすると、半荘は手を強く握る。


「少なくともジヨンは平和だ。それだけは俺が保証する」


「まさか……」


 不穏な事を口にしようとするジヨンに、半荘は笑顔で制止する。


「自分を犠牲にするわけないだろ。俺は忍チューバー服部半荘だ。ニンニン!」


 おちゃらけて、尚且つ、力強く名乗る半荘に、ジヨンは涙をこぼす。


「それに、機関銃と大砲は経験済みだ。余裕、余裕」


「あ……」


 ようやくジヨンも気付いたようだ。

 半荘は、機関砲掃射と艦砲の雨を浴びても、無傷で戻って来た事に……


「もう! 心配して損した!!」


「あはは。ジヨンはそれぐらい強気なほうがいいな」


「ふんっ! 死んだって知らないんだからね!!」


「俺は死なないし、ジヨンも死なせない。約束だ」


 半荘が右手の小指を出すと、ジヨンは嫌そうな顔に変わった。


「うっわ……それ、漫画では死ぬ前のフラグなんだけど」


「あははは。乗って来たな~」


「笑ってるし……はぁ。それじゃあ寝させてもらうわ。おやすみ」


 楽観的な半荘に負けて、ジヨンは指切りは断って眠りに就くのであっ……


「いや……自分の部屋で寝てくんない?」


 隣のベッドでタオルケットを被ったジヨンに、半荘は出て行くように説得するが、まったく取り合ってもらえないのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る