伍 夜襲
27 夜の事件の巻き
ジヨンと長く話し込んでいた半荘は、時計を見て、話を打ち切ろうとする。
「もう夜だな。帰る話も保留って事で……。ただ、日本に来るのならば、俺が凄腕の弁護士を雇うから、ジヨンさんの悪いようにしないと誓うよ」
「凄腕の弁護士って……お金持ちにぜんぜん見えないんだけど?」
「ん? 忍チューバーって自己紹介したろ?」
「え……アレって本当だったの!?」
どうやらジヨンは、発砲があった事で、いつ殺されるかの緊張感もあって、半荘の自己紹介は半分受け流し、もう半分は嘘だと思っていたようだ。
「本当だ。だから、けっこうお金を持ってるんだ」
「うそ……私、大ファンなのよ! 握手してくれる?」
「いいけど、さっきもしたような……」
突然テンションの上がるジヨンに、半荘はたじたじになりながら握手を交わす。
そうして、半荘は夕食の準備をし、二人で食べようとするのだが、ジヨンはさっき食べたばかりだから少しだけ胃に入れていた。
食事が終わると半荘は、席を外して、ある物を持って戻って来た。
「これ、持っておくか?」
ジヨンは、半荘が無造作に置いた物に、目が釘付けになる。
「銃……」
半荘の置いた物は、リボルバー。
玉も装填済みの物だ。
「男と二人きりだと、怖いと思ってな。それがあったら、ちょっとは安心するだろ?」
「でも、使い方が……」
「安全装置を外せば撃てるんじゃないか? 知らんけど」
「知らんけどって……」
「俺も、銃を持ったのは初めてだからな。撃ちたかったら、勝手にやってくれ」
「そう……」
ジヨンは拳銃を手に取り、よく見てから、銃口を半荘に向ける。
「ちょ! まだ俺は何もしてないだろ!!」
「あ……あはは。ちょっとやってみただけよ」
「お互い使い方がわからないんだから、冗談でも、そんな事はやめとこう」
「そうね。悪かったわ」
「じゃあ、寝床に案内するな」
半荘は自分の家のように基地内を歩き、個室のベッドルームにジヨンを連れて行く。
「ここでどうだ? 鍵も掛けられるぞ」
「あなたはどこで寝るの?」
「個室はひとつしか無いみたいだから、あっちにある大部屋だ」
「ふ~ん……」
「ちゃんと鍵を掛けて寝ろよ? 俺は襲う気はないけど、襲われたとか言われたくないからな」
「そんな事は言わないわよ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
ジヨンが扉を閉めて、鍵の閉まる音を確認すると、半荘は仕事に取り掛かる。
まずは武器庫に向かい、銃や手榴弾、銃火機だと思われる物を運び出す。
それをヘリポートに集め、ナイフ類は別の場所へ運ぶ。
何往復も、せかせかと動く事になるが、半荘に掛かれば楽勝な作業。
足音も立てずに、素早く全てを運び出した。
それから少し汗ばんだ半荘は、シャワールームに向かった……
「「………」」
扉を開けた半荘は、パンツを履こうとしていたジヨンと見つめ合う。
「ぎゃ~~~!」
「すみませ~~~ん!!」
数秒の時間停止の後、二人は我に返り、ジヨンは悲鳴をあげ、半荘は謝罪の言葉を残し、無駄に忍術を使ってドロンと消えるのであった。
「まったく……忍チューバーじゃなくて、エロチューバーね」
「すみませんでした!」
半荘は、ジヨンに責められて平謝り。
土下座で事なきを得ようとする。
だが、半荘の耳ならば、シャワーの音が聞き取れるはずなので、確信犯であったのであろう。
「てっきり、もう寝たと思っていたんだ」
あ、せかせかと動き、半荘がシャワールームに向かった時には、シャワーの音も、衣擦れの音もしなかったようだ。
「賠償金を請求します」
「はい……」
「ぷっ……あはははは」
ジヨンの賠償金の請求にも、
「不可抗力だったんでしょ? もういいわ」
「あ、有り難うございます!」
「その代わり、記憶から消去しておいてよね。おやすみ~」
「は、はい!」
ジヨンはそれだけ言うと、手をヒラヒラとしながら個室に消えて行った。
半荘はと言うと、シャワーを浴びてベッドに入ったのだが、ジヨンの裸を見たせいで悶々として、なかなか寝付けないのであった。
深夜……
物音に気付いた半荘は大部屋を抜け出し、通信室に飛び込んで叫ぶ。
「何をしてるんだ!」
そこには、ヘッドホンを耳に当てたジヨンの姿があった。
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