23 発見の巻


 女の悲鳴が聞こえて、女子トイレの扉を慌てて閉めた半荘は、その場から動けなくなってしまった。


「嘘だろ……全員、船に乗ったと言ってたのに……」


 半荘は、驚きながらも次の手を考え、行動に移す。


「ソーリー、ソーリー。アイム忍チューバー」


 つたない英語で話し掛けてみるが、中からの反応は一切ない。

 なので、ダメ元で日本語で話し掛けてみる。


「誰も入っていないと思って開けてしまいました! 本当にごめんなさい!!」


 見えてもいないのに、深々と頭を下げる半荘。

 すると、中から声が聞こえて来た。


「に……日本人??」

「イエース! 日本人で~す」


 テンパって、何故か外国人っぽく喋る半荘。

 そうすると、女は不安そうな声で質問して来る。


「どうして日本人がここにいるの?」


「船が沈んで、辿り着いたのが、この島だったので~す」


「船が沈んだ? ……さっきすごい銃声があったけど、あなたがやったんじゃないの?」


「ノーノー。俺はずっと素手だったで~す」


「じゃあ、銃を撃っていた人はどうなったの?」


「帰って行ったで~す」


 トイレの中の女は半荘と話はしてくれるが、一向に外に出て来てくれないので、半荘は説得に乗り出す。


「えっと、そちらは韓国人ですか?」


「そうよ」


「凄く日本語が上手いですね」


「う、うん……」


「それでなんですけど、トイレから出て来てくれませんか?」


「……それはできない」


「あ、いや、な、何もしませんよ! そこだと、食事や寝るのに不向きだと思っただけです。一切、あなたに危害を加えないと約束します! 忍チューバー、嘘つかない!!」


 女が拒否するので半荘は慌てて弁明するが、忍チューバーは説得の材料になるかは謎だ。

 女も黙り込んで考えてしまっている。


 だが、しばしの沈黙の後、ドアがゆっくりと少しだけ開き、女が覗くように見て来たので半荘は怖がらせないように反対側の壁に背を付け、両手を上げて立つ。

 それで安心したかどうかはわからないが、女はトイレから出て来た。


 女の容姿は美しく、長い黒髪がハラリと肩から落ちる様に、半荘は見惚れて言葉を失う。


「出て来たけど……」


 何も言葉を発しない半荘に、女は緊張しながら声を掛ける。


「あ、ああ……俺はけっこう有名人の忍チューバーこと服部半荘です! ニンニン」


 半荘は女性に免疫が無いからか、テンパりながら、印を切って自己紹介する。

 すると女は忍チューバ―に触れる事もなく、簡単な自己紹介で返してくれる。


「ジヨンよ。……大学生」


「大学生??」


 ジヨンの大学生発言に、半荘は首を傾げてしまった。


「わ、悪かったわね。老け顔で……」


「そ、そんなこと思ってないッス!!」


「さっきまでそんな喋り方じゃなかったでしょ!!」


 実際にもっと歳がいっているように見えたので、半荘はしどろもどろで答えたものだからジヨンの怒りを買って、立場が逆転してしまった。


「あ~。お腹すいた。何か用意してくれる?」


「は、はい! ただいま!!」


 半荘は急いで走って行くものだから、ジヨンは逃げようかと考えたが、逃げ場の無い海の孤島なので、向かった先に歩くしかなかった。


 ジヨンが半荘を探すように歩いていると、颯爽さっそうと走る半荘を見付け、程なくして食堂で食事をいただく事となった。

 ただ、半荘は水の入ったペットボトルを持ったまま立っていたので、座るように促して、食べながら会話をする。


「それで、何があったか教えてくれる?」


「はい! それがですね……」


 ジヨンの質問に、半荘は竹島を乗っ取った経緯を話すが、半信半疑。

 なので、動画を見せると、ようやく少しは信用してくれたようだ。


「な? 俺は悪くないんです。向こうがキレて、殺されそうになったから反撃しただけなんです」


「はあ……確かに見る限りはそうだけど、元々『独島』に来たのが悪いんじゃない」


「いや、漂流して『竹島』に着いたんだから、それも俺に非がないはずだ」


「『竹島』??」


「そっちも『独島』って呼んだだろ?」


 お互いに島の名前を言い合って、睨み合う事となる。


「『独島』は韓国の領土です~!」


「『竹島』は日本の領土です~!」


「「ぐぬぬぬぬ」」


 領土問題で熱くなり、しばらく口喧嘩を続ける半荘とジョンであったとさ。

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