第二尾 ギョギョギョ! 異世界のお魚料理は見た目からしてすぎょい!
おさかなクンとセアヤは歩いてお魚が美味しいという料理屋さんへ向かうことに。
空はもう真っ暗にはなっているが、街の中はチョウチンアンコウっぽい生き物型のランタンが至る所に灯されていて夜道でも明るかった。
「ここだよ」
セアヤ宅から五分ほどで辿り着く。赤煉瓦造りの瀟洒な外観だった。
「字が読めないよ」
店名が書かれてある看板を眺め、おさかなクンは苦笑い。
「『コワザタ』って読むんだよ。ちなみにその隣のお店は、飲み物とデザートがメインのカフェで『コイサ』って読むの。若い女性に人気だよ。日本と話し言葉は同じだけど、字が違うのも不思議だね。わたしますます日本のこと知りたくなっちゃったよ」
「おさかなクンもこの世界の文化、ますます知りたくなったよ」
おさかなクンは意気揚々と店内へ。セアヤもあとに続く。
「二名様、ぎょ案内でーす」
すると、熊の耳をしたワイルドな感じのおっさん店主の威勢のいい声が聞こえてくる。
人魚ちゃんがいて、獣の耳とか、尻尾も付いてる人もいて、おさかなクンのいた世界の人と同じ人もいて、いろんな種族の方々が仲良く暮らしてるみたいだね。すぎょく素敵な平和な世界だね。
二人掛けのテーブル席に着くと、おさかなクンは辺りのお客さんや店員をきょろきょろ見渡し朗らかな気分になった。
「おさかなクンおじさん、どれでも好きなのをどうぞ」
セアヤはメニュー表を手渡してくれた。
「メニューの字も読めないから、セアヤちゃんおススメのお料理でいいよ」
「じゃあ、これにするね」
セアヤが呼び鈴を鳴らし、人魚な女性ウェイターさんに注文してくれた。
数分のち、
「お待たせしましたーっ!」
メニューが到着。ウェイターさんはテーブル上にテキパキと置いていく。
セアヤも同じメニューを頼んだため、二人前だ。
「すぎょく豪華な見た目だね」
暗緑色や紫色など、おどろおどろしい色合いと容貌のお魚の目玉とか、内臓らしき部分も出されていたのだ。正直、思わず目を背けたくなるほどのグロテスクさである。
しかしそこはおさかなクン、目をキラキラ輝かせうっとりと眺めていた。巷の多くの人々とは感性が違うのだ。
「目玉と小腸の部分が栄養満点で特におススメだよ。いっただっきまーす♪」
セアヤは満面の笑みを浮かべて、目玉をスプーンで掬って美味しそうに頬張る。
「異世界のお魚料理、いただきまーす」
おさかなクンも未知の魚料理にもスプーンを手に取り、嬉しそうに食す。
「すっぎょく美味しい。おさかなクンの世界にある大トロのお刺身よりも美味しい♪」
予想以上の美味さに、おさかなクンの表情がほころぶ。
「おさかなクンおじさん、幸せそうだね」
セアヤも嬉しそうに微笑む。
「すぎょく幸せ♪」
引き続き食事を楽しんでいると、突如、音楽が流れて来た。
「このお店、音楽の生演奏もしてくれるんだよ」
セアヤは伝える。
「日本にもそんな感じのジャズ喫茶があるよ。同じだね」
おさかなクンは嬉しそうに伝え、癒しを感じさせる演奏にうっとりと聞き入る。
この曲の演奏終了後。
「おう! 見慣れないお客さんがいるね。吹いてみるかい?」
おさかなクンは演奏者の一人から勧められた。
「はい! やってみます」
おさかなクンはのりのりで参加。サックスを口にくわえ、他の演奏者と共に五重奏での演奏を奏でる。
そして、見事に演奏し切った。
パチパチパチパチパチッ!
観客から拍手喝采!
「魚帽子のお兄さん、めちゃくちゃ上手いね。プロの音楽家かい?」
「いえいえ。おさかなクンは日本では魚類学者で、タレントもやらせてもらってます。おさかなクンは中学と高校の頃、吹奏楽部をお魚さんが泳ぐ水槽がたくさんある水槽学部だと勘違いして、楽器演奏の方の吹奏楽部に入ってしまったんです。それで、トロンボーンとサックスとクラリネットを担当してまして、楽器演奏も得意になってしまったという経緯もありまして」
おさかなクンは照れくさそうに伝える。
「面白い経歴の兄さんですね」
「あの帽子欲しい♪」
子ども達からも大好評だ。
そんなわけで、セアヤとおさかなクンの頼んだメニューの食事代、計1600プクプクは無料でいいということになったのだった。
「ぎょちそうさまでした♪ すぎょく美味しいお料理を堪能させていただいたお礼に、これを差し上げます」
おさかなクンは、先ほど食べたお料理の手描きイラストを差し出した。
「おう、ありがとな。お魚好きな学者の兄ちゃん、絵も上手いんだな」
店主は嬉しそうに快く受け取り、さっそく壁に貼ってくれた。
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