おさかなクンの異世界でもおさかな教室

明石竜 

プロローグ

「わぁ~。イシダイちゃんの群れだ。よく見えるね」

ある秋の日の昼下がり、おさかなクンという魚類博士で、テレビにもよく出演する大人気タレントでもあるおじさんは海を訪れ、レンタルボートの上から魚類調査を行っていた。

今回はテレビ収録のためではなく、プライベートながらトレードマークのハコフグの形をした帽子を被っていた。

彼にとっては体の一部なのだ。

お魚のカラーイラストがたくさん描かれた白衣も身に着けていた。

「風が急にすぎょく強く吹いて来たよ」

波も高くなって来たため、岸へ戻ろうとしたら、

ゴォン!

ボートが岩礁に乗り上げ、その衝撃でおさかなクンは転落して海の中へ。

「ギョギョォォォ~ッ!」

荒波に飲まれ、そのまま浮かんで来なかった。

 

        ☆


「ギョギョ! ここは、どっ、どこなのかな?」

おさかなクンは目覚めると、すぐに起き上がって周囲をきょろきょろ見渡した。

小高い丘の上にいるようだった。

手荷物も無事なようだ。

眼下には、彼が今まで見たことのない風景が広がっていた。

中世ヨーロッパ風の木組み建築や煉瓦建築などが建ち並ぶ街並みだったのだ。

おさかなクンのいるすぐ間近には、鯛やヒラメのような海の生き物が空を飛んでいる姿もまみえた。

草花もエメラルドグリーンに煌いていたりもした。

宝石のようにキラキラ煌く木の実がなっている木もあった。

「ギョギョギョギョォ! 変な、お魚さんだぁ! すっぎょぉーい! 空飛んでるぅ。あんなお魚、見たことないよ」

おさかなクンがぴょんぴょん飛び跳ね踊り甲高い声を上げながら大興奮で観察していると、

「ギョギョギョッ!」

突如、全長五メートル以上は優にあるマンタっぽい生き物が彼の眼前に迫って来た。

「かわいい♪ 空飛ぶマンタちゃん、悪いんだけど、おさかなクンを乗せて町まで運んで欲しいな」

おさかなクンが丁重にお願いすると、

キュピピ♪

 マンタっぽい生き物は快く背中に乗せてくれた。

 そしてスイーッと舞いながら丘を下っていく。

「ありがとうマンタちゃん」

商店や家々が立ち並ぶ街に入ると、おさかなクンはマンタのような生き物に降ろしてもらい、石畳の道を歩くことにした。

看板が見たことない文字で全然読めないけど、お魚みたいな文字で素敵だなぁ。ここ絶対日本じゃないよね。あっ、人だ。ん? 人魚! ギョギョギョ! さっきの空飛ぶお魚さんといい、ここはひょっとして、異世界!

驚愕するおさかなクン。

「すみません、可愛らしいお嬢ちゃん。ちょっとお尋ねしてもいいですか?」

ここに来て最初に見かけた、少し中にも浮いていた幼げな人魚? らしき少女に恐る恐る背後から声をかけてみた。

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