第131話
「うっ・・・。」
振り下ろした剣の切っ先がナーオット殿下の肩に食い込む。
突然の痛みに呻きながら、ナーオット殿下はエドワード様を拘束する手を緩めた。
「がっ・・・。」
エドワード様は拘束が緩むとすぐにナーオット殿下に短刀で切り付ける。
致命傷は与えないが、ナーオット殿下の身動きを取れなくするために手足の自由を奪った。
ちなみにナーオット殿下の血が口に入るとまずいので、表面上の傷は私の治癒魔法で塞ぎ血が吹き出ないようにしている。
「・・・何故だ。」
愕然とした表情で私を見るナーオット殿下。
「私は貴方のおもちゃじゃないわ。」
冷たく吐き捨てるように告げる。
それを聞いて、ナーオット殿下は引きつった笑みを浮かべた。
「お前はレイだろう・・・?どうして、俺に逆らうんだ?お前は俺の下で泣いていればいいんだ。」
「レイチェルには泣き顔よりも笑顔が似合う。私はナーオット殿下とは違いレイチェルの笑顔を守りたい。」
ナーオット殿下の問いには答えない。
代わりにエドワード様がそう告げてくれた。
きっと私は前世の私とは変わったのだろう。
それはきっとライラの影響が強いと思う。
ライラと同化する前の私だったら恐怖と流されやすい体質でナーオット殿下の命令を聞いてしまっていたのだと思う。
「エドワード様・・・。」
ピトッとエドワード様に寄り添う。
私の居場所はここだ。エドワード様の隣だ。
ナーオット殿下の隣ではない。
寄り添った私の腰にエドワード様の手が回される。
「・・・どうしてだ。私は何を間違ったのだ・・・。」
ナーオット殿下はうわ言のように呟く。
「大事な者は大切に慈しまなければならない。それを違えたのだから仕方がない。・・・私も間違えてレイチェルを手放そうとしていた。」
「レイは私の物だ。私のものなんだ・・・。」
なおもナーオット殿下は呟く。
そこには私に対する並みならぬ執着心を感じた。
ただ、足と手の腱を切られたナーオット殿下は手も足も動かせない状態でいる。
「・・・なぜ、そんなに私にこだわるのですか?」
前世も現世もなぜそんなに私にナーオット殿下はこだわるのだろうか。
私としてはナーオット殿下といると嫌なことばかりだ。
罵られたり暴力を振るわれたり精神的に追い詰められたりといいことなど一つもない。
「私のものだからだ。私のものなのだから何をしたっていいだろう?それにレイの恐怖に歪んだ顔は最高なんだ。」
「理解できないな。」
ナーオット殿下の返答にエドワード様はそう切り捨てた。
ユキ様とマコト様も同様に大きく頷いている。
「レイは私のものだ。私のものだ。私のものなんだ。私の・・・。」
狂ったように繰り返すナーオット殿下。
もうずっとそれしか言わないので、エドワード様がナーオット殿下を昏倒させた。
そうして私たちはナーオット殿下を連れてヤックモーン王国の王城に向かった。
ナーオット殿下が私にしたことを国王に告発するためだ。
ハズラットーン大帝国の属国であるヤックモーン王国がその皇太子の婚約者を奪おうとした。それにエドワード様の暗殺まで含まれていた。
これは由々しき事態である。
それ相応の罪をナーオット殿下に償ってもらいたいのだ。
ヤックモーン王国の国王に謁見を申し込むとハズラットーン大帝国の皇太子と自国の王子が一緒ということもあって、それほど待たぬうちに謁見の間に私たちは通された。
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