第108話
「………レイチェル。」
レイチェルの言葉を受けてエドワード様は、笑みを消した。
「君は大きな勘違いをしているようだね。私は皇太子という地位よりも、レイチェル。君が欲しいんだよ。レイチェルが手に入らないのならば、皇太子の地位なんていらないんだよ。」
淡々と告げられる言葉に、レイチェルはハッと息を飲んで、両手を口元にあてる。
「で、でもっ!!それでは国がっ!!」
焦るレイチェルに、エドワード様は、にっこりと微笑んで見せた。
「皇太子になるのは、私ではなくても構わない。この帝国を善き方向に向けていけるのであれば、誰だって構わないんだよ。」
「そんなっ!なんのためにエドワード様が今までっ皇太子として血を流すような努力をしてきたとっ!!」
レイチェルが悲痛な声で叫ぶ。
「レイチェルのためだよ。」
「………私の、ため?」
レイチェルのためだという言葉にレイチェルが呆然とエドワード様を見つめる。
レイチェルは、まさか自分のためにエドワード様が、皇太子としての道を全力で進んできたとは思わなかったようだ。
「私は、君の父親が君を皇太子妃として育てようとしているのを知っていた。だから、一目惚れをした君を手に入れるには皇太子となることが近道だったんだ。君の父親からすんなりと君をもらい受けるためには皇太子という地位が必要だったんだ。」
「で、でも………。」
「そうして、君が皇太子妃という地位を重荷に感じていることも知っていた。だから、レイチェルが公務をしなくてもいいように私が前面に出て行こうと思ったんだ。そのために努力をしてきたんだ。」
真剣なエドワード様の瞳に見つめられてレイチェルは口を開くことも出来ずに戸惑い立ちすくむ。
ふわりとエドワード様の目が柔らかくなり、そっと伸ばされた手はレイチェルの頭を優しく撫でた。
「私は、君が欲しいんだ。レイチェルだけが欲しいんだよ。そのためだったら、私はなんだってしてみせる。」
「………エドワード様。私は………私は………。」
うるうると目を潤ませて、エドワード様を見つめるレイチェルは、恋する乙女のように見えた。
「レイチェル。元の身体に戻ってくれるね?」
「………少し時間をください。」
エドワード様が、そこまで言っているにも関わらず、レイチェルは頷かない。
レイチェルは何を考えているのだろうか。
エドワード様の気持ちもわかったし、このまま頷いてしまえばすべて丸く収まるのに。レイチェルは、何が引っ掛かっているというのだろうか。
「私は………皇太子妃という重圧から逃げたいと思っていました。でも………。今は少しだけエドワード様とともに国を守っていきたいと思う気持ちがあります。でも、まだ覚悟が出来ないのです。もう少しだけ待っていてください。私が皇太子妃になるという覚悟が決まるままでお待ちください。もし、待てないというのであれば、私のことはどうぞお捨て置きください。」
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