第106話

声のした方を振り返れば、そこには仁王立ちになったエドワード様がマコト様と並んで立っていた。


「エドワード様………。」


「覗き見だなんて趣味が悪いわよ!エドワード!」


「やあ、ライラにユキ。君たちはずいぶんと仲がよかったんだね。」


ユキ様は、突然現れたエドワード様に食って掛かる。


エドワード様は涼しげに笑ってこちらを見ている。


「仲が良いことはとても良いことだね。ああ、私がなぜやってきたかはわかるよね?」


にっこりと笑顔を見せるエドワード様。もちろん、エドワード様がここに来た理由はすでに察しがついている。


私の中にいるレイチェルに会いに来たのだろう。


「私にはあまり時間がないんだ。部屋からこっそり転移してきたからね。そんなに何時間もいないことは誤魔化せない。早速で悪いがマコト、よろしく頼む。」


「わかりました。エドワード様。ライラさん、すみませんがエドワード様はレイチェル様とお話がしたいそうです。ご協力をお願いいたします。」


マコト様がそう言って深々とお辞儀をした。


「わかっているわ。でも、先程のことがあるから、素直にレイチェルが出てきてくれるかは………。」


私はそう言って口ごもる。


先程、レイチェルとユキ様が話したいからと言って、マコト様の薬を飲んだのだが、出てきたのはレイチェルではなく女神様だった。


もしかしたら、またレイチェルが出てこない可能性もあふ。


「そうですね。それは、エドワード様に説明済みです。女神様のことも報告済みですので、ご安心ください。」


「失敗しても構わない。私はただレイチェルと話がしたいのだ。」


「わかりました。マコト様、お願いいたします。」


エドワード様の真剣な眼差しは、レイチェルと話がしたいということを強く望んでいるようだった。


エドワード様とレイチェル様はすれ違っている。それは、私も理解した。


ここで、二人が話すことですれ違ってしまった二人の関係がもとに戻るかもしれない。


それは、レイチェルが元の身体に戻りたいと願うきっかけになるかもしれない。


マコト様は、私が頷いたことを確認してから紅茶と薬を用意してきた。


そっと私の前に差し出されるティーカップ。私はカップを手に取ると、カップに口をつける。


特有の甘い香りが鼻を擽る。


こくりと一口、また一口と飲んでいく。


口の中に広がる甘い香りとともに、靄がかかっていく思考。


私が私ではなくなるような感覚。


ふわっと意識が浮上して、自分の身体から浮き上がったような感じがした。


「………エドワード様。」


ポツリと漏れた声は私が発したものだろうか。それとも…………。


「………レイチェルなのか?」


エドワード様が息を飲んで私の顔を見つめて声を漏らした。


こくりと頷く私の身体。


ああ、どうやらレイチェルの意識が無事に表に現れたようだ。


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