第95話
「じゃあ、早くエドワード様に許可をいただきにまいりましょうか。」
にっこりと笑みを浮かべてマコト様が告げる。先程までのしんみりとした空気はいったいどこに行ったのだろうか。
しかし、いきなり皇太子であるエドワード様に謁見することはできるのであろうか。
普通であれば、手順を踏んで日程調整等が必要だと思うのだけれども。
マコト様が私に向かって手を伸ばしてくる。
手を繋いで城まで行こうということなのだろうか。帝都をマコト様と手を繋いで歩くだなんて恥ずかしすぎるんだけど。
それとも、私の気が変わって逃げないようにするため………?
差し出された手を掴めずに、マコト様の手をじっと見つめていると、焦れたようにマコト様が私の右手を掴んだ。
「シロ、クロ。お願いしますね。」
「「にゃあ。」」
マコト様がシロとクロの名を呼ぶと、どこからともなく、真っ白い猫と真っ黒い猫がやってきた。
さっきまで姿を見なかったのにどこにいたのだろうか。
優雅に歩きながらマコト様の元に近づくシロとクロ。
「じゃあ、行きますよ。ライラさん、しっかり掴まっててくださいね。」
「えっ?」
マコト様は掴んだ私の右手に力を入れて、自分の方に力強く引き寄せる。
私はマコト様に引っ張られて、バランスを崩してマコト様の腕のなかにすっぽりとおさまってしまった。
細い見た目とは裏腹に私を掴む力は強く振りほどけそうにない。
やはり、マコト様は女性ではなく男性だったとその力強さと、女性とは違う身体の固さに改めて思った。
………マコト様は、男性なんだ。
そう思うと何故だかドキドキと胸が脈を打った。
そして、そのままグラッと視界が揺れる。
「ライラさんはまだ転移の魔法を使いこなせてはいないみたいですね。」
「え?」
マコト様と私はいつの間にか、エドワード様の執務室の中にいた。
「シロとクロの力を借りたんですよ。」
マコト様はにっこりと笑って教えてくれる。
そうだった。マコト様とユキ様が飼っているシロとクロの二匹は転移の魔法が使えるんだった。
そう思って頬が赤くなるのを感じた。
私ってば、てっきりマコト様と手を繋いで帝都の街中を歩いて城に向かうんだと勘違いしていた。
恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
どこかに隠れてしまいたい。
「マコト。なにかあったのか?」
恥ずかしさで見悶えていると、エドワード様の落ち着き払った声が聞こえてきた。
久々に見たエドワード様の姿はその声とは裏腹に、少し痩せたような気がした。
いや、痩せたと言うよりは窶れたという感じが近いだろうか。
「レイチェル様のことがわかりました。」
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