第72話
「ここはさるお方から没収したお屋敷になります。広い屋敷ですが使用人もおりますので安心してお過ごしいただくことができるかと思います。」
マコト様はこの屋敷について、そう説明してくれた。
でも、どうしたらこのお屋敷が没収されるようなことになるのだろうか。
記憶の中では屋敷が没収されるような事柄に思いあたらなかった。
しかしながら、この屋敷の中での嫌な思い出というのはいくつも思い出すことができる。
「・・・どうしました?」
「・・・いいえ。なんでもありません。」
思い出したくないことを強制的に思い出させられたような感覚がして、気分が悪くなってしまう。
きっと顔色も悪くなっているのだろう。
マコト様が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
本当のことなんて言える訳がないので曖昧にごまかす。
「・・・ここは、広すぎます。いくら使用人がいるから安心して過ごせると言いましても、私には恵まれ過ぎた環境です。」
「そうですか。ですが、皇太子妃になりたい方であればこのような環境に慣れておく必要があると思いますが?」
この家には住みたくないと告げればマコト様はそう切り替えしてきた。
マコト様はどうも私を皇太子妃の座を狙っている者とたいらしい。
そんな窮屈な環境など不要なのに。
「私はエドワード様とどうこうなりたいなどと思ったことはありませんわ。」
レイチェルはエドワード様のことが大好きなようですけれど、私とレイチェルは違うもの。
私の記憶の中にレイチェルの記憶が紛れ込んでしまっただけ。
レイチェルの記憶があるとしても、私がエドワード様を好きになるかどうかなんてわからない。
「そうですか。わかりました。では、ここは辞めておきましょう。あと、2つ程紹介できる物件はありますが内見できるまでには少々時間がかかります。どういたしますか?」
以前の説明では残りの2つの物件は地方都市にあると聞いている。
私としては住めればどこでもよいし、地方都市よりも帝都の方が仕事が多そうなのでできれば帝都で過ごしたい。
「不要ですわ。一番最初に見せていただいた家にいたします。」
「そうですか。では今日からにでも住めるように手配いたします。屋敷内の掃除はいかがいたしますか?専門のものをご用意いたしますか?」
内部を見させていただいたところ部屋数はそれほど多くなかった。
夫婦で使用するための主寝室と子供部屋だか客室に使用していたのかわからないけれども綺麗に片付いている部屋が2部屋あった。
そのくらいの部屋数であれば私一人でも掃除をすることができるだろう。
「いいえ。不要よ。私が掃除いたしますわ。それとも、私に掃除を任せるのは不安かしら?」
「まさか、そのようなことは。ただ、あまり部屋を汚くされるような場合はこちらで勝手に専門のものを手配させていただきますのでご了承ください。」
「わかったわ。」
どうやら私は掃除もできないお嬢様だと思われているらしい。
まあ、レイチェルだったら掃除なんてしたこともないだろうし、出来なさそうだけれども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます