第30話
ユキ様が、私をぎゅっと抱き締めながらエドワード様を睨み付けている。
エドワード様は、そんなユキ様を睨むこともなく、ただ寂しげに微笑んでいた。
「そうだね。逃がしてあげたいが、レイチェルは妊娠しているんだよ?そんな身体で逃げられるとでも思っているのかい?」
「あら、大丈夫よ。私には猫様たちがいるから。」
エドワード様が確認するように、ユキ様に尋ねる。
ユキ様は、勢いよく頷いていた。
それをきいて、エドワード様はホッとしたように顔を緩ませた。
「レイチェル。君とは婚約破棄をする。子はレイチェルにかかる重圧とストレスで残念だが流れたことにする。そうしないと、君を殺さなければいけなくなってしまうからね。」
「そんなっ!エドワード様、急にどうして!!」
「待っていたわよ。エドワードありがとう!レイチェルは連れていくわ。」
エドワード様は表情を変えずに淡々と私に告げる。
私のことを愛してくれていたのではなかったのだろうか。
少なくとも私はエドワード様を愛していたのに。
どうして………?
「では、婚約破棄を皆に知らせなければならないから私はもう行く。レイチェル、元気でな。」
エドワード様は、こちらを振り向くことなく部屋から出ていってしまった。
後に残された私はユキ様にすがりながら、泣くことしかできなかった。
泣くことしかできない私をユキ様とクロ様、シロ様がずっと慰めていてくれた。
「レイチェル。逃げるのならば早い方がいいわ。」
ユキ様が泣き止んだ私に告げる。その瞳には確かな決意が見える。
エドワード様に婚約破棄されたくらいで、どうして逃げなければいけないの。
どこに逃げるというの。
私には帰る場所なんてないのに。
「どこへ逃げるというの。私には帰る場所なんてないわ。お父様だって、私が皇太子妃になることを望んでいるわ。それがダメになったら私は家を追い出されるわ。」
「のんびりと暮らせるところよ。」
悲嘆に暮れる私にユキ様は、にっこりと笑って教えてくれた。
とてものんびり出来てストレスがないところを知っている。
そこで、のんびり子供を産んで育てようと。
ここにいたら、遅かれ早かれ子が流れる可能性があると。
「私でもいけるかしら。」
「行けるわ!ね、シロ!クロ!」
「「にゃあ!!」」
シロ様とクロ様は、得意気に鳴いた。
その姿は何故かとても神々しかった。
「荷物は最低限にしてね。ドレスは不要よ。邪魔になるから置いてきてね。替えの服は私が用意するから!」
「え、ええ。わかったわ。」
ユキ様に言われるがまま、私は皇太子宮を出る準備をする。
ドレスは持っていけないから、化粧品や替えの下着、お気に入りのハーブティーを鞄に詰めた。
エドワード様からもらった品々はどうしようか。
今までにエドワード様からもらったものが多すぎて全てを持っていくことはできない。
婚約破棄をされたけれども、やはりエドワード様からもらったものは未練がましくも置いていくことができない。
エドワード様から贈られたドレスは置いていくとしても、このカメオと、うさぎのぬいぐるみだけは持っていこう。
「レイチェル?準備できた?」
「ええ。」
私が荷物を見せながら頷くとユキ様の表情が少し曇った。
「荷物多すぎ………。ま、いっか。クロ、シロお願い。」
「「にゃあ!」」
どうやら、荷物が多かったことにユキ様はあきれたようだ。
仕方ないじゃない。
どれも手放せなかったのだから。
クロ様とシロ様が私たちの側で鳴くと目の前が真っ白になった。もとい、真っ白な光に包み込まれた。
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