第12話
「あの・・・エドワード様はとても優しいお方です。なぜ別れろなど・・・。」
混乱しながら、マコト様とユキ様に確認する。
ユキ様は会ったばかりだからわからないが、マコト様は一ヶ月一緒に過ごしてみて嘘をつくような人ではないことはわかっている。
「それは・・・。」
マコト様が言い淀んだが、
「あなたが悪役令嬢だからよ。」
ユキ様がきっぱりと告げてきた。
「えっ?・・・うっ。」
【悪役令嬢】その言葉を聞いた私はまた胸のムカムカに襲われ気持ち悪くなってきてしまった。
今回はそれに目眩まで加わっている。到底座っていられる状況でもなく、「ごめんなさいね。」とマコト様とユキ様に謝って椅子にもたれ掛かる。
少し離れた場所に待機していた侍女が足早にやってくるのを視界の端でとらえたところで私の意識は暗転した。
『ヒロインのユキとマコトは悪役令嬢のレイチェルに立ち向かってエドワードの心を掴むのよ。』
『え?でも、レイチェルってエドワードの婚約者じゃなかったっけ?』
『そうよ。でも高飛車で卑怯で血も涙もないような人よ。』
『そんな人ならエドワードとの仲を妨害してくるんじゃ・・・。』
『もちろんよ。レイチェルの苛めに耐え抜きエドワードをゲットするのよ。まあ、でもエドワードなんていらないけどね。』
『ははっ。でも、目的のために手段を選ばないようなエドワードがなぜレイチェルを婚約者にしていたのかな?』
『さあ?政治的なものかしら?もしかしたらユキやマコトはエドワードの婚約破棄にいいように使われたのかもね。』
『・・・それを聞くとエドワードが一番ひどい性格をしているような気がするね。』
『そうよ!だから私エドワードを好きになれないのよ。』
夢だろうか。
真っ黒な視界の中で誰かが会話をする声が聞こえてくる。
いつも誰かと誰かが私とエドワード様のことで話し合っている。
それにしても、私もエドワード様も酷い言われようである。
でも、エドワード様と結ばれるのって王道なのよね?
他ルートはあるけれども、たしかにゲーム開発会社の一押しはエドワード様だったはず。
って、あれ?
王道って?
他ルートって?
ゲーム開発会社って?
自分の思考のはずなのに、意味のわからない単語がたくさんでてくる。
まるで、エドワード様と私が出ているゲームを私は知っているようだ。
もしかして、私は知っている?
私は大切ななにかを忘れてしまっているのだろうか。
「・・・イ。・・・レ・・・イ。・・・レイ。」
暖かい私を呼ぶ声に導かれるように意識が浮上する。
両手に暖かい感触がある。誰かに手を掴まれているようだ。
「・・・だぁれ?」
「レイ。私だよ。」
ゆっくり目を開けた先には心配そうに私の顔を覗きこんでいるエドワード様がいた。
ああ。
また私はエドワード様に心配をかけてしまった。
「エディ・・・。私また倒れたのね。ごめんなさい。」
「気にしないで。マコトとユキに何か言われたんじゃないのか?だからレイが意識を失ったのでは?」
声は優しいがエドワード様の目が笑っていないような気がする。
静かな怒りをエドワード様の中に見たような気がする。
「いいえ。異世界のことを聞いていただけよ。」
エドワード様と別れるように言われたのは黙っておく。今、エドワード様にそれを告げるのはよくないような気がしたのだ。
「本当に?君は二人を庇っているのかい?」
「庇ってはいないわ。」
優しく微笑んでいるはずのエドワード様の笑顔がなんだか怖い。
私が変な夢をみた影響でそう思うだけだろうか。
「そう・・・ならいいんだ。・・・アラン、二人を解放してあげて。」
前半は私に、後半は側に控えている近衛騎士のアランになにやら言っていた。アランへ何を言ったのかは聞き取れなかったが、「はっ!」と言って敬礼していたのできっとアランになにか命令をしたのだろう。
アランは部屋を後にした。
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