第10話


あれから一ヶ月が経ったが、エドワード様は優しかった。夢は夢であったようで、エドワード様がマコト様に夢中になることも今のところなかった。

ただ、妊娠したことにより情緒不安定になったりつわりで苦しんでいるときに側にいてくれることが多くなった。

いったい、どうして気持ちが悪くなったときにすぐに察して側に来れるのかはわからないけれど。

それに、執務だって滞っているのではないかと心配になる。

それほど、しょっちゅうエドワード様は私のところへ来てくれた。


「ユキ、どうしてここに来たんですか?ユキはここには来てはいけないと、あれほど言ったのに。」


皇太子宮の中庭を散歩していると、誰かの話し声が聞こえて来た。

普段だったら気にしないのだが、その会話の中に「ユキ」という名前があったため、足を止めてしまった。

そら耳かもしれないが、この前突然聞こえてきた会話で「ユキ」と「マコト」という二人のヒロインがいると言っていたのだ。

あの声がなんなのかよくわからないが、「ユキ」という人物もエドワード様に関係するのだろうか。


「あら、いいじゃない。マコトは今日はお仕事休みの日でしょう?それより、私はレイチェルに会いたいのよ。会って言いたいことがあるの。」


「ユキっ!呼び捨てはダメだよ。レイチェル様は皇太子殿下の婚約者様なのだから。それに、婚約者じゃなかったとしても公爵令嬢なんだ。私たちにとっては雲の上の人なんだよ。」


ドキッと胸が一度高鳴った。

ユキ様は私のことを・・・知っている?

私に言いたいことってなんだろう。

なんだかとても嫌な気がしてきた。


「うっ・・・。」


私の精神に影響するのか、不安を感じるとすぐに気持ち悪くなる。

突然襲ってきた気持ち悪さに思わずその場にしゃがみこんでしまう。


『ユキとマコトって選べるんでしょ?どう違うの?』


『ユキは癒しの力が使えるの。マコトは不思議な魔道具というものが作れるのよ。』


『へぇーそれ以外には?』


『どちらを選ぶかによってエンディングが異なるの。』


『どんなエンディングなの?』


『エンディングまでの分岐にもよるんだけどね、trueエンディングでもマコトはエドワードの側に侍るだけなんだけど、ユキはエドワードと結婚することができるのよ。』


『どうして、マコトだと結婚できなくてユキだと結婚できるの?』


『それはね・・・。』


また突然、知らない人たちの会話が聞こえてきた。でも、どこか懐かしい声に聞いたことのある会話ないようだった。

なんとなく、どちらかの言葉は私が発していたような気がする。

確信はないけれども・・・。

それ以上に、会話の内容がとても気になった。マコト様はエドワード様と結婚ができないけど、ユキ様はエドワード様と結婚できるとか。

・・・私という婚約者がいるのに?どうして?


「あ、レイチェルだわ!」


「ユキ!」


気持ちが悪くて踞っている私の耳に、焦ったようなマコト様の声が聞こえてきた。


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