借りた金は返す(8年後に)
「お金貸してあげるよ」
「いや、ただでさえ役立たずだったから」
「努力はみえた」「世の中結果だけじゃないですよ!」「ほら、た、立ち向かうこと自体に意義がある!んじゃなでしょうか。……えっと、たぶん」
客観的に観ても役には立っていなかったことがよく分かった。いやしょうがない。今回はヒーローが来るまでのやられ役的ポジションだったことに異論はないから。
そもそもの話、昨日僕は液体窒素さんと仲直りできたはずである。……多分。だからもう仲直りのためのプレゼントやらのお金など不要になったのだ。
「ほらよ。貸されとけ。借りたら返せばいいだけの話だろ」
ペラリと藤崎瑠璃子の懐から紙切れが差し出された。そこにはあの人が印刷されていたのだ。
「福沢諭吉さんじゃないか!」
なぜあなたほどのお方がこんなやつのポケットにいらっしゃるのか!
他の小学生二人は「すごーい」と無邪気に喜んでいるが僕は騙されない。
「どこで拾ったんだい?」
一定額以上のネコババは普通に犯罪だった気がする。僕は優しく語りかけた。
「いや、おこづかい」
藤崎瑠璃子はふてぶてしい顔でそう言い放った。
「嘘をつけ。そんな金があるやつは俺からうまい棒をむしり取っていったりしない。はい論破」
僕はべろべろべーっと舌を出して勝ち誇る。小学生を完全論破するのは気持ちいいな。
橘恵美と気弱そうな小学生が「うわぁ」と引いたような声を出していたが、気づかなかったことにした。
「うーん。パパとママがこういうのは買っちゃダメってさ」
「なら貰ってもダメだろ」
「貰うのは禁止されてないし」
清々しいまでの屁理屈だった。どう考えで不審者からお菓子を貰う方がやばいと思う。
あまりに堂々としていて、どうも嘘を言っているように見えない。うーん。もしかして本当なんだろうか……?
お金持ちの娘というには少々品性が足りない気がするが。
「ん」
と彼女は福沢諭吉を押し付けようとしてくる。そう、プレゼントはもう必要ない。
だがよく考えて欲しい。僕の大切な食糧源であったうまい棒は底をつき、残る食料調達手段は給食の余りしかない。そして僕の所持金は……。
つまりだ、この福沢諭吉が、僕には喉から手が出るほど欲しいのだ。
「じゃあ、あの……貸してもらいます。ホント返すから、今は無理だけどあとでちゃんと返すから」
僕はへこへこと頭を下げながら両手で万札を受け取った。返すのはざっと8年後くらいになると思うけども。
「あの、少ないけど私たちも……」
と、チャリンチャリンと僕の手のひらに小銭が積まれる。一万円に比べれば少ないかもしれないが、小学生にとってこの小銭がいかに大金かということは理解できた。
結局僕は罪悪感に苛まれつつも、お金を返すことはできなかった。
「そういえば、おまえあのめっちゃ強くてカッコいいお姉さんと喧嘩したってことだろ? よくまだキンタマが無事だな」
「瑠璃子ちゃんっ!!」
藤崎瑠璃子の、いかにも小学生が言いそうな下ネタに、他2名の小学生が赤面し、発言した当の本人は橘恵美にはたかれた。ざまぁ見ろ。
その日、僕は過去に戻ってきてから初めてまともな食事をとった。
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