音痴を証明するたった一つの冴えたやり方
「ねぇ。そういえば次の授業って合唱練習だけど、なんで二人は合唱練習いつもサボってんの? 」
僕は、思えばヤンキー女二人組がサボっている授業は音楽だけだったと思い出し、理由が気になって聞いてみた。
「べべ別に? 特に理由とか、ね、ねぇし」
「え?」
「ウッセェお前には関係ねぇだろがカスぶっ殺すぞ!」くらい言われると思っていた僕は、加藤菜々子の予想を大いに裏切るか細い反応に思わず声が漏れた。
彼女は視線を僕から逸らして、足をモジモジとさせて歯切り悪く、活力のないボソボソボイスで反論してきた。らしくない答え方に僕は首をかしげた。
「あー。私は一人ぼっちでサボる菜々子が心細いかなーって一緒にサボってあげてるだけだしー。」
友達がサボったら自分もサボる。加賀恵は頰に人差し指を押し当てて、そんなダメなセリフを恥ずかしげもなく平然と言ってのけやがった。
なんだかこの女は将来ビックになるような気がする。一方相方である加藤菜々子の方は案外ビビリというか、小物臭が拭えないのがなんだかかわいそうだ。
ある意味小物臭と大物臭かする者同士、釣り合いが取れていると言えなくもない。
しかしなぜ加藤菜々子はこんなに狼狽えているのか。 さっきまでの怒りもすっかり萎んでしまったようだ。そこで僕はもしかしてと閃いた。
「あのさ、もしかして加藤さんって歌うの得意じゃないの?」
ゴミボ音痴なの?という質問を多少オブラートに包んで言ってみた。
すると彼女は下を向いて沈黙した。
「あー。バレちゃったかー。」
そんな彼女の代わりに加賀恵が残念そうに呟いた。どうやら予想は合っていたらしい。
そのつぶやきと共に加藤菜々子が勢いよく顔を上げて復活した。
「わ、悪いかよぉっ。下手なんだよ! 壊滅的に下手なんだよっ。 お前カラオケで20点連発したことあんのかよ。めっちゃ得意な曲でも40点台だぞ? 平均点数80以上って何なんだよ舐めてんのか!」
彼女は右手で僕の胸ぐらを掴むと、涙目になって僕を前後に揺らしながら自分が如何に音痴なのかを感情露わに力説した。
「ちなみに私は90点下回ったことないけどねー」
「ちくしょぉぉぉおっ」
トドメというか死体蹴りと言っても良い加賀恵の煽りに、加藤菜々子の怒りのボルテージが臨界点を突破したのか叫びながら地団駄を踏みだす。
「あー。カラオケの点数だっけ。僕って昔から友達居なくて、カラオケとか行ったことないんだよ。ほら、一人で行くのってなんだか恥ずいし」
「お、おぉ。な、なんか悪いな。傷口抉るような真似しちゃってよ」
僕が言葉を聞いた彼女は気まずそうな顔をして胸元から手を離した。僕に対する憐れみが怒りを鎮火させたらしい。
「でも、音痴に関しては僕も結構なもんだと自負してるよ」
彼女たちの前でも一度歌声を披露したこともあるのだが、当然彼女たちはそれを覚えていない。その時は何だこいつという目を向けられたわけだが、あれは奇行に対しての反応だったのか、それともゴミボに対しての反応だったのかは判断のつかないところである。
「はぁ!? それは聞き捨てならねぇ。私は「マジ歌下手なんだよねぇ」って言っときながら80点以上の点数叩き出す奴らが死ぬほど嫌いなんだよ。そんなに言うなら歌ってみろよ」
どうやら僕の音痴発言は彼女の地雷を踏み抜いたらしく、酷くお冠である。
……しかし歌ってみるか。その言葉で、橘恵美のことで一つ思いついたことがあった。
「いやー。流石にクラスメイトの前で一人で歌うとか、公開処刑みたいなもんでしょ。よほどのドMじゃなきゃ無理なんじゃない?」
加賀恵がそんな事を言う中、僕は言った。
「良いだろう。そこまで言うなら見せつけてあげよう。僕がどんなに音痴かってことを。先に言っておくがワザと音を外してるわけじゃないから悪しからず。」
僕はみんなに今一度ゴミボを披露することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます