異世界でスキルを解体したらチートな嫁が増殖しました − 概念交差のストラクチャー −（ＷＥＢ版）

第１４話「やっと落ち着いたから冒険者ギルドに登録しよう」

　次の日。

　僕とセシルとリタは、メテカルの町の冒険者ギルドに来ていた。

　ひと通りの説明を受けて、禁止事項 （冒険者同士の殺し合いの禁止。ただし、正当な理由がある場合を除く。民間人へ危害を加えることの禁止。メテカル自治法に違反しないこと。その他）の誓約書への署名を済ませた。

　最後に登録料を支払って、僕たちはやっと、正式にギルドの一員として登録された。

　禁止事項への誓約が『契約（コントラクト）』じゃなくて署名になってるのは、契約だとペナルティが大きすぎるから。ギルドではそこまでの責任を持てないからだそうだ。

　たとえば『契約』違反で頭痛が起きてるときに、魔物に出会って殺されたら？

　たとえば、悪い民間人がクエストの報酬とかを狙って攻撃して来たときに、『契約』のせいで抵抗できなかったら？　

　冒険には危険がつきものだ。

『契約』に縛られて命を落としたら、意味がない。

　誓約書に違反した場合はギルドを追放されるし、メテカルの自治法に違反したら、普通に裁かれる。今のところは、それでうまく行っていますよ、と、受付のお姉さんは教えてくれた。

　スキルやパラメータの確認はなかった。

　どんな能力を持っているかを知られるということは、逆を言えば何が出来ないか──要は弱点をさらす、ということだ。情報なんかどこから漏れるかわからないし、それを嫌ってギルドの加入者が減るのも困る、てな訳で、漏れたら困る個人情報は基本的に集めない方針らしい。

　そのおかげでセシルやリタの正体は、ばれなかった。

　セシルはダークエルフで通ったし、リタは耳と尻尾を隠して、人間ってことで登録できた。もっとも、二人とも僕の奴隷って扱いだけど。

　ギルドにはダークエルフの登録者もいるそうで、種族的なこだわりはないみたいだ。

　ギルド加入の特典は、まず第一に仕事が受けられること。

　これは仕事の奪い合いを避ける目的があるらしい。

　昔はいい仕事をめぐって戦ったり──場合によっては殺し合いをしたこともあったそうだ。今はギルドを通して仕事を受けるというルールになってるのは、それを避けるためだって説明だった。

　第二の特典は、ギルド所有の施設を優先的に使えること。

　宿屋だったり、下宿だったり、あるいは商店だったり……冒険者が使いそうな施設は、ちょっとだけお得に使えることになっているそうだ。

　ちなみにこのメテカルにはギルドがふたつある。

　ひとつは僕たちが登録した『庶民用ギルド』

　こっちはメテカルの商人がスポンサーになって運営している。

　外から流れてきた冒険者や、メテカル出身の一般人が登録することが多い。

　もうひとつは貴族が運営している『貴族ギルド』だ。

　あっちは王家の子息や、貴族の子供たちなどがハクを着けるために登録するのがメインだとか。

　貴族ギルドは王家から大きな仕事を依頼されたりするけれど、あっちのギルド員で本当に腕が立つのは一部だけ。できない仕事は庶民ギルドに回ってきているのが現状らしい。

　結局のとこ『庶民ギルド』は大きな互助会なんです、と、受付のお姉さんは言った。

　腕の立つ人はダンジョンに潜ればいいし、自信のない人は採取系のクエストをすればいい。

　とにかく、仕事が欲しい人にそれを回すことで、最適の生き方を探してもらう。

　自分は冒険者に向かないと思ったら、人脈ができそうなクエストを受けて、それから別の仕事を見つければいい。

　メテカルは商業都市だから、そうやって経済を回していくのがいい。

　要は、みんなが死なないように、ってシステムなんですよ──

　そう言ってお姉さんは、説明をしめくくった。

　最後に「たまにシステムが回らないこともありますけどね……」ってぼやいてから。

　僕たちは最初のクエストを受ける前に、宿に戻った。

　それぞれのスキルと効果を確認してからの方がいいってことで一致したからだ。

　まずは、僕のスキルから。

『能力再構築』したスキルがわかるように、僕がひとりで組み替えたスキルには「Ｒ（レア）」が、セシルやリタと一緒に組み替えたスキルには「ＵＲ（ウルトラレア）」がついてる。

　レベルはあくまでも参考に。スキルの平均値で計算してみた。

　職業も、できることのおおざっぱなイメージだ。

　種族も、別にギルドに申告するわけじゃないから、そのまま。

　ソウマ＝ナギ

　種族：人間

　職業：スキル・ストラクチャー

　レベル：２

　固有スキル『能力再構築（スキル・ストラクチャー）ＬＶ２』

　自分と、配下の奴隷のスキルの『概念』を入れ替えることで、新たなスキルを作り出すことができる。奴隷の体内にあるスキルと自分のスキルを使って再構築すると、より高等なスキルができやすくなる特性がある。

　ＬＶ２で増えた能力は不明。

　昨日の夜、いろいろ実験したけど結局わからなかった。いやほんとごめん、リタ。

　リタのスキルを全部くまなく触っただけで『再構築』も『実行』もしてないんだから機嫌直してください……。

通常スキル

『贈与剣術ＬＶ１』（Ｒ）

『剣や刀』で『回復力』を『増やす（１０％＋ＬＶ×１０％）』

　効果：剣や刀で斬った相手に再生能力を与える。相手本来の治癒能力にプラスされる。増加値はこのスキルのＬＶ×１０％＋１０％(現在の増加値：２０％）。

『建築物強打ＬＶ１』（Ｒ）

　部屋の壁や内装に強力なダメージを与える。破壊特性『煉瓦』『木の壁』

『高速分析ＬＶ１』（ＵＲ：セシル）

　周囲の状況を素早く分析する。高速化した分だけ、効果範囲は通常の分析よりも減少。

『異世界会話ＬＶ５』

　異世界の人々と会話することができる。また、文字を読むことも可能。

『超越感覚ＬＶ１』（ＵＲ：リタ）

『沈黙』することにより、所有者は自分の五感を一時的に遮断することができる。

　感覚遮断中は第六感が鋭敏になる。使用できるのは一日一回。

　次はセシルのスキル。

　セシル＝ファロット

　種族：魔族（表向きはダークエルフ）

　職業：妹系魔法使い

　レベル：２

　固有スキル『魔法適性ＬＶ３』

　すべての魔法の効果がＬＶ×１０％＋１０％増加する（現在の増加値：４０％）

　通常スキル

『古代語詠唱ＬＶ１』（ＵＲ：セシル）

　呪文を古い言葉（古代語）で詠唱する。詠唱速度は通常より遅くなり、代わりに威力が大幅に増大する。増加率は２００％から８００％程度。ただし、魔力の消費もそれに応じて増大する。

『魔法耐性ＬＶ１』

　魔法攻撃からのダメージがＬＶ＋１０％（ボーナス値）減少する（現在の減少値：１１％）

　ボーナス値はレベルアップに伴い増加。

『魔力探知ＬＶ１』

　周囲にある魔力を感知することができる。

『鑑定ＬＶ２』

　対象のアイテムの価値を見抜くことができる。成功確率はＬＶ×１０％。

　魔法がかかったアイテムの場合、鑑定成功率が『魔法適性』のＬＶ×１０％追加される。

『動物共感ＬＶ３』

　動物と意思を、なんとなく通じ合わせることができる。

習得魔法『火炎魔法ＬＶ１』

『灯り』『炎の矢』『火球』

　最後に、リタのスキルだ。

　リタ＝メルフェウス

　種族：獣人（表向きは人間）

　職業：野生的神聖格闘家

　レベル：３

　固有スキル『格闘適性ＬＶ４』

　武器・防具を装備していない場合、素早さが『格闘適性』ＬＶ×１０％増加する。

　ロックスキル

『神聖力掌握ＬＶ１』（ロック：摘出不能特性）（ＵＲ：リタ）

　所有者が持つ『神聖力』を把握し、身体の好きな部位に集中することができる。

　その部位の強度が増すため、攻撃力・防御力が強化される。

『神聖格闘』のダメージボーナスが２倍になる。

『神聖加護』が強化される。毒、麻痺の他、呪い、致死系の魔法を無効化。

　通常スキル

『神聖格闘ＬＶ４』

　戦闘中、相手に与えるダメージが『神聖格闘』ＬＶ×１０％増加する。

　相手がアンデッドの場合、ダメージは更に２０％増加する。

『神聖力掌握ＬＶ１』の効果により、現在ダメージ２倍ボーナス中。

『神聖加護ＬＶ４』

　戦闘中、相手から受けるダメージが『神聖加護』ＬＶ＋１０％（ボーナス値）減少する。

　ボーナス値はレベルアップに伴い増加。

　相手がアンデッドの場合、ダメージは更に２０％減少する。

　毒・麻痺の無効化。

『神聖力掌握ＬＶ１』の効果により、現在、呪い・致死系の魔法を無効化。

『歌唱ＬＶ４』

　とても綺麗な歌が歌えるスキル。かけだし吟遊詩人レベル。

『気配察知ＬＶ４』

　においや音、気配などで周囲の動きを察知する。

『無刀格闘ＬＶ１』（Ｒ）

　素手の状態で与えるダメージが『無刀格闘』ＬＶ×１０％増加する。

　以上。

　改めて見るとセシルとリタの能力の高さと、僕の戦闘力のなさがはっきり分かる。

　まぁ、僕の目的は英雄になることじゃなくて『働かなくても生きていけるスキル』を作り出すことだからいいんだけど。

　欲しいのは採取系のスキルだ。

　概念に『お金を……』ってのが入ってれば最高だな。

　組み直して『お金』を『無限』に『増やす』スキルとかできたら、それでクリアだ。

　よし……全身の力を抜いてがんばろう。

　できればずっと、メテカルにいられればいいんだけど……。

　というか、あちこち移動するのって疲れるからねぇ。

　宿に戻ったあと、僕たちは話し合って、最初はまず採取系のクエストから始めようって決めた。

　まずはメテカル周辺の地理に慣れること。

　地図を覚えること。信用できそうな知り合いを見つけること。

　とにかく生き残るのが先。

　ダンジョンに潜るなんてもってのほか。

　そういうことで話がまとまったから、僕たちはまたギルドへ向かった。

　僕たちはクエストが貼り出されてる掲示板──クエストボードから、採取系の仕事を探した。

　そんなものなかった。

　さっきギルド登録したときに貼り出されていたクエストの紙は全部はがされてて、

　受けられる仕事は、ひとつだけ。

『全員参加クエスト』

・魔剣争奪戦

　８０年ぶりに『魔剣レギナブラス』がダンジョンに出現したという情報が入りました。

　みなさんも知っての通り、貴族ギルドはいつも私たちに無茶な仕事を押しつけてきました。彼らは傲慢（ごうまん）になるばかりです。

　その上、彼らが魔剣まで手に入れたら、こっちはどんな目にあわされるかわかりません。

　それを防ぐため、庶民ギルドメンバーは全員でダンジョンでの魔剣探索に参加してもらいます。

　探知魔法によると、魔剣は地下最下層付近、第１２階層に存在する可能性が高いです。

　みなさんの健闘を祈ります。

「……………………はい？」