第7話

 聖剣を手に入れて、冒険はいよいよ本番です!


「いや、今までだって」


「あーあー!きーこーえーなーいー!」


「子供か」




 旅の仲間もそろったし、勇者のお墓参りもしたし、いよいよ魔界と人間界をつなぐポータルへ向かって出発です。


 道中いくつかの村に立ち寄り休息しつつポータルを目指します。


「でも進めば進むほど、村が小さくなってくるよね」


「そりゃまあ開発が一番進んでいるところが中央で、そこから離れるほど開発途上ってことになるからな。こんな辺境では住んでいる人も少なくなるから」


「お店の品ぞろえもあんまりよくないし」


「人は便利で安全な中央に集まるからな。良い武器とか丈夫な鎧とかは、それを作る職人がいなければ作れないし、この辺の鍛冶屋は新しいものを作るよりも、古くなった道具の修理が専門だろうな。そもそも武器や鎧を売って生計を立てていないだろうし」


「じゃあ新しい武器や鎧が欲しくなったらどうするの?ダンジョンで宝箱を探すとか?」


「今より良い武器が欲しいというなら素直に街に行って店を探したほうがいいぞ。まあ聖剣以上のものって言われるとどうかわからないが、箱詰めされてダンジョンの奥に放置された武器なんて湿気に晒されて錆びているかもしれないしな」


「そっかー……そういえばゴルガスさんって前にダンジョン探索したことあるみたいなことを言ってなかったっけ?」


「ああ、あるぞ。滅んだ王国の放棄された城なんかの地下にはたまに財宝があるなんて噂が立つからな」


「じゃあ財宝とかみつけたことはあるの?」


「いやいや、あくまで噂は噂だしな。あてにはならん。それにあったとしても競争だからな。というかむしろ噂が立った時点で誰かがそこに行った可能性が高い。行ってみたらあらかた持ち出されてた、なんてのは珍しくもない」


「ふーん……」


「もちろん巧妙に隠された財宝がないわけじゃないから、すでに探索し尽くされたような所にも行ってみたりはするが、そう簡単に見つかるわけもないしな」


「夢がないなぁ……」


「ま、一獲千金を狙うなんてそんなもんだよ」




 ポータルを目指す旅は今までよりも長いものになります。

 何しろ辺境のさらに向こう側へ行くのですから。


「ここから先はもう人が住んでいない土地になるな」


「どういうこと?」


「つまり町や村はもうないってことだ」


「そうなんだ……ポータルまで、どのくらいかかるの?」


「このまま徒歩で行ったら三ヶ月ぐらいかな」


「ふーん、そっかー」


「お、なんだ落ち着いてるじゃないか。いつもみたいに騒がないのか?」


「残念でしたー。私だって成長するのです!徒歩で三ヶ月でも、アルマさんのテレポートの呪文とかでパッとついちゃうんですよね」


「すまんがわたしの呪文で行けるのは、過去に行ったことのある場所だけじゃぞ?」


「あ、あれ?そうなの?」


「そうじゃよ。テレポート呪文で移動するには一度その場所に実際に行かなければならないのじゃ。これは言ってみればテレポート呪文が場所との縁を手繰って移動するからじゃな」


「て言うか、勇者の墓参りを徒歩で行った時点で気付け」


「ふ、ふーん。でもでも!飛行呪文とかでビューンと!」


「全員をまとめて飛ばすのはちょっと難しいかのぅ。一人ずつ運んで往復することになる。そうなると空を飛んでいるとはいえ、かなり時間もかかるじゃろうて」


「ええっ、じゃあどうするの!?」


「ふふん、やっといつもの勇者に戻ったじゃないか」


 全然嬉しくなーい!


「大丈夫だ。そう遠くないところに転移門が設置されているからそれを使う」


「転移門?」


「転移門というのは目的地が固定されている簡易なポータルだな」


「そんなものが……ていうか、なんで最初から教えてくれないのよ!」


「そりゃ勇者をからかうのがおもしろいからだろ」


 なんで!!


 そんな!!


 いじわる!!


 するの!!


「……勇者、なに踊ってんだ?」


「全身で怒りを表現してるの!」


 魔王許すまじ。





 翌日の昼頃まで歩いて着いたのは小高い丘の上。

 そこには石のタイルを敷き詰めて作った円形の舞台みたいな場所がありました。


「これが転移門なの?」


 タイルは円をいくつも組み合わせたような模様を作っています。

 一番外側の円の内側にその同心円がいくつかと、そうした円の上にさらに小さな円がいくつか。


「そうさ。こいつを使えば移動時間を大幅に短縮できる」


「そうなんだ」


「そうさ、すげーだろ?」


 魔王ドヤリング。

 マリアさんに抱っこされてるくせにねー。


「……なんかドヤってるけど、これ魔王が作ったの?」


「いや、違うけどさ……別にいいだろ?こいつがすごいことは変わらないんだから」


「確かにそうじゃな、これは大した呪物じゃ」


「へー。アルマさん、呪物って何?」


「魔法はマナが心の動きに反応してできると言ったのは覚えておるか?」


「あ、うん。人間は体が邪魔で魔法が使えないんだよね」


 アルマさんみたいな妖精族は体の存在が薄いので心がマナと直接触れて魔法を使うことができる。

 ちゃんと覚えてますよー。


「左様。そして呪物というのはそうした魔法を心を持たない物に使わせる仕掛けじゃ」


「へー」


「ほれ、所々に透明な石がはめ込まれておるじゃろ?」


「あ、本当だ」


 かなり大きくてキラキラきれいな透明な塊りが数か所、石のタイルに円形に囲まれた部分にはめ込まれています。


「あれは水晶じゃ。水晶というのは常に微細な振動をしておって、独特の波を放射する性質がある。その波を利用してマナを反応させ、魔法を使うのじゃ」


「そんなことができるんだ!?」


「あの水晶をよく見てみぃ。細かい模様が刻んであるじゃろ?これが水晶の放射する波の形を変えるのじゃ。それによって魔法が発生するという訳じゃ」


 へーへーへー。


「模様の刻み方次第で強力な魔法や複雑な魔法も実現できる。マリア殿の持っている簡易結界のペンダントも呪物の一種じゃな」


 マリアさんのペンダントはすごく長ーい鎖が付いています。

 普段はそれを何重かにして首にかけているんだけど、使うときは鎖を伸ばして地面に置いて大きな輪を作ります。

 この輪の中に入っていると、周りからは気配を感じにくくなるのです。


「おおお。あれ?じゃあ呪物を使えば私でも魔法が使えるんじゃない?」


 ビームの出る剣とか!重さのない鎧とか!


「ある意味その通りなのじゃが、呪物で実現できる魔法には制限も多くてな。持ち運べるようなものでは、ごく単純な魔法しか使えんのじゃよ」


「そっかー、残念」


 そこへ魔王が首を突っ込んでくる。


「アルマ先生の魔法講座は終わったか?」


「うん、魔王よりずっと親切だった」


「そうかい、そりゃ良かったな。じゃあそろそろ出発しようぜ」


「はーい」



「転移門の真ん中の円の中に立てば、自動的に転移が行われるぞ。さて、順番だが……」


「一人ずつなのか?だったら俺が最初に行くぜ」


 おお、ゴルガスさんかっこいい!


「二番目はワシじゃな。三番目は……魔王はマリア殿と一緒で良いじゃろ。それからエルマにヴィルゴースト殿で、最後に勇者殿」


「私が最後なんだ。この順番はどうして?」


「まずは俺とアルマさんで行き先の安全確保、勇者とエルマともくもくは残った側に万が一襲撃があった場合に備え、マリアさんと魔王は最後に残すわけにはいかないから真ん中、てところかな」


「なるほど……」


 最後に残るのが一番危険なんですね。

 ……。

 勇者ですから!


「じゃ、行ってくるぜ」


 ゴルガスさんが転移門の真ん中に立つと、周りに設置された水晶が輝き出し、ゴルガスさんが光に包まれます。

 そして一瞬強く光ったかと思うと次の瞬間その姿は消えていました。


「これがゴルガスさんとの今生の別れになるなんて、この時の私は思ってもみなかったのです」


「魔王、変なモノローグやめて」



 続いてアルマさん、マリアさんと魔王、エルマちゃんが転移しました。


 残ったのは私とヴィルゴーストさん。

 う……ヴィルゴーストさんと二人きりかー。


「じゃあ、ヴィルゴーストさん、行ってら……」

「勇者よ」

「ふ、ふぁいっ!?」


 よりにもよってこのタイミングで話しかけられるとか!?

 ていうか、この人怖いんだよー。

 ……人じゃないんだっけ。

 えーと、エルダーヴァンパイア?


「貴様は魔王様をどうするつもりなのだ?」


「ま、魔王を?」


 ご質問の意味が解りませんが!


「そうだ。過去の勇者たちはいずれも魔王様を倒すために召喚された」


 私もそうです。


「そして魔王と戦い倒してきた」


 私もそうです。

 ……一応?


「貴様もまた魔王様を倒すつもりなのか?」


 えっと、もう倒し済み?

 でもそれ言うとまた睨まれるかも。


「私は、魔王軍の侵攻を阻止できればいいかなーって」


「なるほど……貴様はなぜ魔王軍が人間界に侵攻するのか知っているのか?」


「魔王はガス抜きだって言ってたけど……」


「ふん、そうだな」


 うーん、なにがいいたいんだろう。


「その状況についてどう思う、勇者よ」


「どうって言われましても……」


「……ふん、考えなしに言われるままに戦うということか」


 うー、たしかに特別考えてませんが、そういう言い方はないんじゃないかなぁ。


「でも人間界に攻めてくるのは魔王軍でしょ?この世界の人達だって生き延びたいんだし、私が魔王を倒せばそれが叶うならそうするべきじゃ……」


「そのために魔界の住人が死に絶えるとしてもか?」


 えー、なにそれ?そういう話は聞いてないんですけど。


「それってどういうことよー」


「……お前は一度、全てを知る必要があるということだ」


 そう言うとヴィルゴーストさんは転移門に立って転移してしまいました。

 言いたいことだけ言って消えるとか!

 そんな事言われたって訳わかんないんですけど!


 魔王の話だと魔王軍の人間界侵攻って、割とお気楽なレジャー気分みたいに聞こえたんだけど、そうじゃないってこと?

 そしてヴィルゴーストさんの、私はすべてを知る必要がある、って言葉。

 なんだろう、私がまだ知らない重要なことがあるのかな。


 いや、そりゃ私はまだいろいろ知らないことはあると思いますけど!


 もうちょっと親切に、詳しく教えてくれてもいいじゃないの……。


 あとで魔王に聞いたら教えてくれるかな?



 ……なんか色々もやもやするけど、仕方ありません。

 私も転移門に立って転移するのでした。





 <<つづく>>

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