第7話 あなたは何派?わたしは揚げ派

 

 

「おいひぃ!」

「火傷するなよ」

「はーい!!」


 ベンチに座ってたこ焼きを両頬いっぱいに頬張る様子は、幼さをより強調させる。

 

 日光の下で溶けそうと思っているブラウンだったが、イエローの無邪気な様子は心を和ませた。


 たこ焼きを買いに行くだけなので、今回は敢えて隊服は着ていない。イエローは金髪というよりは黄色みの強い髪を両耳の下で結び、半袖とショートパンツというラフな格好だ。若さと活力の溢れるしなやかな手足は健康的で微笑ましい。


 その隣に座るのが、猫背気味でくたびれたワイシャツを着た黒髪の冴えない男なので、道行く人が少女へと心配そうな顔を向けている。


 まぁイエローはそんな視線など全く気にも留めずにたこ焼きと格闘しているが。


「明石たこ焼きおいしい! ブラウンの揚げたこ焼きもちょーだい!」

「ああ……、って答える前に食べてるな」

「もーらいっと!」


 えへへーと笑いながらソース味も楽しんでいる様である。ちなみにブラウンはだしの効いた明石たこ焼きも好きだが、毎度だしが零れて飛ぶのでソースたこ焼きばかり買っている。


 周囲も和やかな様子に満足したのか、次第にブラウン達を気にしなくなっていた。


 そよそよと長閑な風が吹く。ぽかぽかとした陽気はブラウンの眠気を誘う。


 ふわと欠伸をするブラウンの横で、食べ終えた紙パックを重ねたイエローもまた、背伸びしてベンチの背もたれへと体を預けた。


「いい天気だねー」

「だな。ちゃんと宿題は終わったか」

「や、やってるよ」

「嘘は良くないぞ」

「うっっ」


 素直なイエローはバレバレな嘘しか吐けない模様。


 ブラウンに窘められたイエローは大人しく帰ったら宿題すると約束する。


 15歳で卒業となる孤児院で年長組のイエローは、孤児院だと張り切るお姉さんキャラなのだから。


 でも、大人しく言うことを聞くだけというのは嫌なのが思春期のお年頃。


「ブラウンって言うことオジサン臭いー」

「うぐっ」


 反撃で急所を狙撃するイエロー。


 まだ29歳独身なのに既に漂うくたびれたオジサン感。本人も自覚しているので、一回りも下の少女に言われると胸にくるものがあるのである。哀しき哉。これが企業戦士。


 顔を両手の平で覆って回復を図るブラウンを見て、あははーと笑う無邪気な小悪魔もといイエロー。恐らくブラウンのハートは思春期少女よりもセンチなガラスであろう。アーメン。


「……、まぁ、食べ終わったら今日はもう上がるか。イエローもこのまま帰ったらいい」

「え? でも」


 驚いた様に瞬くイエローだが、宿題もあるだろうし、ブラウンなりの偶には自由に時間を使えばいいという配慮である。


 アーモンド色の瞳を揺らすイエロー。


 イエローが何かを言いたそうに口を開こうとした瞬間、遠くの方から女性の悲鳴が聞こえた。


 瞬時に二人とも立ち上がり、悲鳴の方へと走り出す。そこに躊躇いは微塵もない。


 それは最早染み付いた習慣だ。ベンチに置き去りにされたたこ焼きのカラがぱたりと落っこちる。


 腕に装着してあるボタンで一瞬で早着替えを終えると、イエローは先程までの感情を忘れ、哄笑を上げながら戦闘の興奮に目を輝かせるのだった。




 

















 

トネコメ「揚げたこ焼きたべたい」


 



 

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