第68話 「おぉーまいぎゃぁあー!」
更新です。
白恋Reで泣き泣きの一週間でした。
―――
「おぉーまいぎゃぁあー!」
と、リーンの絶叫が夜空にこだまする。
砕け散った金属片が光に還っていくのを前に這いつくばるリーンの頭を、ユアは優しくなでる。
「あー、どんまいっす」
「ん。どんまい」
苦笑するきらりんと、流石に哀れと思うのかリーンの肩に手を置くリコット。
そんな慰めが届いているのかいないのか、リーンはしばしめそめそ。
しかしなんだかんだ切り替えの早いらしい彼女はにわかに立ち上がると、まなじりの涙を拭いながら笑みを浮かべる。
「でもまーユア守れたからおっけー!」
「うん。リーンのおかげだよ。ありがとうね」
「うむ!」
労ってやればたちまち上機嫌になったリーンに抱き上げられるユア。
いいこいいことなで可愛がりつつ、リーンにかかりっぱなしですっかり放っておいてしまったフローラルトータスへと視線を向ける。
しかしすでに、そこにフローラルトータスは存在していない。
どうやらさきほどの極光は正真正銘最後の力を振り絞った攻撃だったらしく、撃ち終わるなりそのまま力尽きてしまったのだった。
あとほんの数舜でも長く続いていたらリーンの大剣が先に砕けていただろうと思えば、なんだかんだぎりぎりの戦いだったと言える。
「やー、強敵だったね」
「ん」
「ユア様の御采配による勝利でございます」
「ほんと、よく受け止めようと思ったっすよね」
「その方が燃えるかなって」
「さすがにそれはそうっす!」
悲鳴を上げてこそいたものの。
強大な敵の必殺技に死力を尽くして対抗する感覚は、きらりんの大好物だったらしい。
うんうん頷くきらりんの一方、若干一名不満げな様子の幼女も居たりする。
「ゾフィはもっともやしたかったですの」
「うーん。やっぱりCT長いのが大変だよね」
「なんか自然にスライドしてるっすけど燃える違いっす!とか突っ込んでいいっすか?」
「いいよ」
「いやそれ燃える違いっすから!」
「だまれですの♪」
「それすこしも丁寧になってないっすよ……?」
「ゾフィ、めっ」
「ゃんですの♡」
「……」
暴言を吐いた悪い子なお口をむいむい躾けられて嬉しそうに鳴くゾフィ。
なんとも自然にだしにされたきらりんは釈然としないものを抱き、よしよしと慰めるユアの視線と指先をそれはそれとして満喫する。
そんなきらりんの裾をくいっと引っ張るリコットと視線を交わす。
ゾフィという敵(?)を共有することでその間に奇妙な連帯感が生まれそうになったが、正直きらりんからすればリコットもさして変わらないので自然と視線はじっとりと湿度を帯びる。
リコットの方もそうするなり明らかに視線が路傍の石ころでも見過ごすように興味を喪失するあたり、きわめてどっちもどっちだった。
そんなこんなでなでなでタイム。
しながら、フローラルトータスの素材を確認してみることに。
どうやら攻撃の反動で死亡したような場合にはアイテムは最後にダメージを与えたプレイヤーのものになるらしく、きらりんのインベントリにいろいろと入っている。
「なんかめっちゃ多いっす。甲殻が3に、皮が4、っす。特にレアっぽいのはないっすねー」
などと言いながら、きらりんはインベントリからそれぞれ一つずつ実体化して見せる。
甲殻は、わずかに湾曲するごつごつした分厚い六角形。その周りに、なにやら柔軟性のある組織がへばりついている。それだけでも大型盾として使えそうなサイズだが、持ってみれば見た目ほどは重さを感じない。
一方の皮の方は、これまた人ひとりがくるまれそうなほどのサイズの分厚いもので、表面は鱗のようなものに覆われて硬い。なんなら甲殻よりも重さを感じるくらいで、軽率に片手で持ち上げようとしたきらりんは目を白黒させた。
「これがたくさんあるんだ」
「っす。さすがにでかいだけあるっすね」
へー、と声を上げながら、『観察眼』を向けて結果を共有するユア。
『花園亀の甲殻』
・フローラルトータスの甲羅の欠片。これの集まって構成される甲羅は、長い間の地中生活にも耐える強靭さを有する。表面はごつごつしており、これが滑り止めとなって背負う花園が落ちにくいようになっている。
『花園亀の皮』
・フローラルトータスの全身を覆う強靭な皮膚。厚さのわりに極めて柔軟。皮膚そのものもゴムのように衝撃を分散させる効果を持つ上に表面は薄くも硬質な鱗に覆われ、ちょっとやそっとの攻撃は容易く跳ねのけてしまう。
「おほー、プラスチックみたーい!」
甲殻をこんこん叩いていたリーンが楽しげに笑えば、同じくかどうかはさておき打診していたなっち(「・ω・)がそれに頷く。「
「遥かに強固な素材ですね。ライフル程度であれば容易に弾くかと」
「当たりどころによっては割れそうっすね。あんま柔軟じゃなさそうっすし」
「半面、文面にある通り長期の圧力には強いように思われます。おそらく組み合わさることで更に圧力を分散させていたのでしょう」
「じゃーごかっけーもあるの?」
「見た感じはなかったかな?」
「ユア様の見立ては正しいかと。接合部の組織が高い柔軟性を有しており、構造にある程度のゆとりを持たせていた模様です」
「ほへー」
「さすがよく見てるっすねー」
感心の声を上げつつ、きらりんは皮の方も持ち上げてぐにぐにと引っ張る。
「こっちはほんとにゴムみたいっす。手―切りそうっすね」
「鱗ってはがせる?」
「んー、おりゃ!っす」
「あ、すごいあっさり」
「ふち気をつけるっす」
「ありがときらりん」
きらりんから差し出される、白く半透明な鱗。
太ましい雫のような形状のそれは薄くつるつるとしており、縁の方はきらりんの言う通り手を切ってしまいそうな鋭さを持っている。
試しに『観察眼』を向ければ、鱗自体の説明も確認できた。
『花園亀の鱗』
・フローラルトータスの皮膚を覆う美しい鱗。外部からの光を拡散・反射させ、皮膚を刺激から守る性質を有する。一見薄く頼りなくも見えるが、へたな金属よりも硬質である。柔軟な皮膚の動きを阻害しないために比較的サイズが小さく、一体のフローラルトータスで数万枚もの鱗を有しているという。
「……なんかこう、こうやって見ると普通に戦ったらかなり強敵だったんだろうね」
「首から先はうろこ全損してたっすからねー。それでも刃はほとんど通らなかったっすけど」
「ゾフィの大活躍のおかげだね」
「つぎはいちげきでしとめてみせますの♪」
「口の中うてばいけるかもー?」
「まぁ!それはいいあいでぃあですの♪」
「まーセオリーっちゃセオリーっすね」
それを喜々として語る少女の姿がどう映るかというのはさておく。
そうしてドロップアイテムをひとしきりためつすがめつし、さらになでなでタイムを満喫したところで、時計を確認したユアが一行を見回す。
「さて、じゃあそろそろ戻ろっか」
「あー、へπトスさんも待ってそうっすしね」
「や、多分そろそろ―――」
と言ったとたん、ユアの元に届く通知。
見ればヘπトスからの催促の連絡であり、ユアはそれを共有化して見せた。
「やっぱりヘπトスさんからだったよ」
「おおー。がちぎれー」
「……あー、めっちゃ怒ってるっすね?」
ひとまず驚愕は置いておいて、その文面から感じる怒気に苦笑するきらりん。
そんなきらりんにユアはにっこりと笑む。
「たぶん大丈夫だと思うよ」
「先輩が言うならそうなんっしょうねー」
「うん。多分テンション高いとこうなっちゃうのかな」
「あの人常にハイテンションじゃないっす……?」
「ふふ、そうかも」
にこにこと笑うユアには一体何が見えているのか、やはり理解できないきらりんである。
「あ、その前に素材だけ私に集めとこっか。渡しやすいように」
「っすー」
「糸以外のも一応くれる?」
「かしこまりました」
「ん」
「糸以外もっすか?まいいっすけど」
「うん。まあ、一応だけど」
そんなことを言いつつ、今回の冒険で得たアイテムを譲渡されていくユア。
森でこまごまとザコを討伐していることもあり、そこそこの量がインベントリに収まった。
それを終えたところで、一行は再ログインし街へと戻ることに。
その短時間の間にわざわざむぎゅうと抱きついてきた鈴を秒であやした綾がユアとして降り立ってみれば、そこにはすでに他の面々もそろっていた。
「ようやく来たわね!?」
相も変わらず尊大に腕を組み出迎えるヘπトスに、ユアは笑みを深めながらうなずく。
「お待たせしてごめんなさい。でも、きちんと素材は集めてきましたよ」
「当然よ!?それぐらいこなせない雑魚に興味はないわ!!でもその話は後よ!来なさい!?」
一方的に告げるなり、ヘπトスはきびすを返して歩き出す。
ユア達は顔を見合わせ、そうして彼女の背に続いた。
「なんだか楽しそうだね」
こっそりとつぶやくユアの言葉に、残念ながら同意できるメンバーはいなかった
■
《登場人物》
『
・そろそろメッセ届きそうだな、とかどういう思考回路してたら思えるんでしょうね。まあ、流石に今回のは偶然です。相手が恋人でも何でもないヘπトスさんですからね。にしたって見透かしてる風ですけれど。
『
・大剣を失った。ざんねん。でも実は普通に修理もできる。よかったね。
『
・法を犯す必要もない分ストーカーよりたちが悪い、とかそんなことをひっそり思っていそう。辛辣かよ。でも、だから嫌いになるかと言われたらまったくそんなことがない自分が一番不思議。
『
・基本的に人類なんて綾とそれ以外(自分含む)くらいにしか分類されていない上に、それ以外なんてほんと石ころとか、よくてお気に入りの箸くらいの幅しかないらしいですよ。
『
・体内からの爆発という天啓を得てしまった。ひぇ。とはいえ基本的に詠唱魔法はサイズがでかいからよっぽどそんな恐ろしいことは……。まあでも、そういう攻撃ってわりとメジャーですよね。それをリアルばりのクオリティがあるVR内でやるのはどうなのかっていう議論はいったんおいておきます。
『
・綾を危険にさらしてしまったことをひっそりと反省中。でもスタイル的にそこまで守ることに特化してないからなあ。今更ながら、AWがファンタジーであると認識してみる。その結果スーパー使用人は一体どこへ走って行くのだろう。プロットダイィィーン!!!
『
・お久しぶりの登場だと思ったけど案外そうでもないへπトスさん。なんだか楽しそうらしいよ。テンション高いっていうのと喜びを誤魔化すのが同時にあると怒ってるみたいに見えるタイプ。どんなタイプやねんな。
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