救世の光

平中なごん

Ⅰ 神話の時代

 それは、ある時代のある村の物語……。


 わたし達の住む村は、北方の深い森と草原がどこまでも広がる土地にある。


 短い夏の間は過ごしやすいものの、長い冬には一面真っ白な雪に覆われ、わたし達は極寒に耐え忍びながら、春の到来を心待ちにして暮らしている。


 わたし達は自らのことを〝ルーシー〟と呼んでいた。遥か太古の昔には、それはそれは大きな国を築いていた民なのたそうだ。


 今では飢えと戦いながら万物の創造主たる太陽神ソーンツァにご加護を祈り、その日その日をなんとか生き延びる非力で貧しい暮らしぶりであるが、村の長老の話ではその大きな国がまだあった頃、わたし達の先祖はまるで魔術師のような力を持っていて、たいへん豊かな生活を送っていたらしい。


 魔法の薬を土に撒いて野菜も穀物も思いのままに実らせることができ、家畜も自在に子を産ませて無限に増やしていたのだという。


 薬といえば、どんな病気でも治せる万能の霊薬を持っており、たとえ怪我で腕や脚を亡くしたとしても、新たに造りだして、まるで壊れた土人形を直すように取り付けることができたのだそうだ。


 また、鉄でできた馬や、その馬すらいなくても走る馬車を乗りこなし、鉄の大蛇の腹に入って遠く何処までも旅していたのだとか。


 いや、そればかりか鉄の大鳥を操って空をも飛び回り、果ては星が浮かぶ天界にまで昇れたなんて話まである。


 それに、雷神の力を借りて遠くにいる者と会話することができ、この世界のあらゆる場所で起きていることを瞬時に知る千里眼すら持っていたらしい……。


 ま、あくまで言い伝えなので、「だいぶ話を盛ってるな…」と、わたしは話半分に聞いているのであるが……そんな神さまのようなこと、非力な人間にできるわけがない。


 でも、時折、土の中から大昔のものと思しき変なものがでてきたり、森の奥深くでほんとに人が何百人と入れれるほどの〝鉄の大蛇〟の骨を見たという人もいるので、あながちすべてが嘘というわけでもないようだ。


 それから、その時代のわたし達の祖先の国は、すべての民が平等で王様も貴族もおらず、収穫された作物は公平に分けられ、誰しもが豊かな暮らしを享受して幸福に暮らしていたのだという……やはり、神さまのような力を持ったご先祖さま達の国は、神々の住まう天界の如き楽園だったのかもしれない。


 …………だが、今は違う。

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