第2話 裕一
いつもなら周りの自転車を傷つけないように、とか自分のバイクが濡れないように、とかそんな独自のこだわりでバイクを止めている裕一だが、今日ばかりはそうも言っていられない。
空いているスペースにバイクを乱暴に止めると、急いで階段まで走った。
すごく動きづらい。今までこんなにもスーツだったことを後悔したことはないだろう。だが、今の裕一にはそんなことはどうでもよかった。乱暴に力強く階段を駆け上がる。
今、彼の頭の中にあるのは
「早く。1秒でも速く。」
ただ、それだけである。
慌てすぎて鍵がなかなか鍵穴に入らない。インターフォンを押すと、華英がぶつからんばかりの勢いで飛び出してきた。
「あなた! 早く病院に行きましょう!!詳しいことは車内で話すわ。」
「わかった」
それしか口から出なかった。
病院への車内で華英が話してくれたことを簡潔にまとめると、大学のサークル仲間とご飯を食べることになり、その帰りに車と衝突事故を起こしてしまったとのことだった。今は、サークルの先輩が1人着いていてくれているらしい。華英への連絡も彼が行ってくれたそうだ。
病院に着くと、救急治療室に通された。医者の話しによるとここに一華がいるらしい。
その前のイスには一華の先輩と思われる若い男が一人座っていた。彼は、私たちに気づくと声をかけてきた。
「一華さんの御両親でしょうか?」
「ええ。あなたは先ほど連絡をくださった・・・・・・?」
「佐藤隼人と申します。この度はこのような事態になってしまい申し訳ございませんでした!私の監督不行届のせいで・・・・・・」
「そんなことないわ。そんなに自分を責めないで?」
「・・・・・・実は彼女を食事に誘ったのは僕なんです。もし、あの時僕が誘っていなければ・・・・・・!本当になんて言っていいか。」
「あなたには責任はないわ。もう遅いし私たちも到着したし帰らなくて大丈夫なの?」
「はい。既に両親には連絡しました。」
「ところで、一華はお酒を・・・・・・?」
「いえ! 今回は大学近くのファミリーレストランでしたしそのようなことは一切ありません。一華さんの他にも注文した人はいませんでした。」
「まあ、そうなの?ちなみに、一華のサークルはどのような・・・・・・」
まるで、口を開いていないと不安が溢れ出してしまうのではないかという程に2人は話し続けていた。他人と話して、傷の舐め合いをしていないとやっていられないのだろう。彼は私たちが到着するまでどれだけ自分を責めたことだろうか。
「私たちのサークルはバイク愛好会です。一華さんは他にも所属していたようですが・・・・・・」
『バイク愛好会』?『食事会』?
もし、こいつが食事会に、連れ出さなければ・・・・・・!
・・・・・・違う。悪いのは全部俺だ。そもそもこのサークルに入った理由は一華のバイク好きだからだ。その原因は俺。事故当時乗っていたバイクはRF-02。それを与えたのも俺。結局、全部俺が・・・・・・
ギイッ
重々しい扉の開閉音とともに血塗れの手術服を着た今回の執刀医であろう男が部屋の中から現れた。
この時、私たち3人は大げさではなくその男の一挙一動に注目していた。
ここにいる誰もが「一命を取り留めました」という言葉を期待した。
「・・・・・・手術は終わりました。」
「先生! 娘は!?」
医者はゆっくりと首を横に振った。
「最善を尽くしました。ですが・・・・・・」
「そう、ですか・・・・・・」
その後のことはよく覚えていない。だが、華英の様子が見ていられないくらいだったことだけは覚えている。
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