第187話 ポリタンク作戦

 翌日、午前3時55分。

 100個のポリタンク、約1,800ℓものガソリンを改札部屋のオートリペアショップで買い、【亜空間庫】しまい持ち、11階層のカンガルーが居た階層で、ゴルと一緒に朝4時のリポップを待っていた。


 いつもは、モーブ達に合わせる様に、朝の6時前後に起き出す生活リズムなのだが、新しい階層を攻略した後は、モンスターが何処にリポップするのかを調べる必要があるので、少し早起きして来たって訳だ。


 11階層の真っ直ぐな通路に立ち、スマホの時計と睨めっこしながら4時を待つ。

 ホテルの様に規則正しく通路の両脇に並んでいる6つの部屋の中の何処か1部屋からリポップするのか、それともバラバラにあちこちの部屋からリポップしてくるのか見極めなくてはならない。


 時計が4時を示した瞬間に敬太は【探索】を使い、辺りの様子を伺う。

 すると右奥の部屋に赤い光点が出現していた。


「ゴル!行くよ!」

「ニャー」

 

 直ぐにゴルを連れだって反応があった右奥の部屋に駆け込むと、部屋の天井付近に紫色の霧が立ち込めており、異様な雰囲気を醸し出していた。


 これは1階層で罠を作っていた時にも経験した事なのだが、この霧からモンスターがリポップしてくるのだ。


 【亜空間庫】から5体合体ゴーレムを6体ほど出し、しばらく様子を見ていると、天井付近に漂っていた霧が集まりだし、その影が濃くなってくる。

 そして、それらが次第に地面にゆっくりと下りて来ると、やがて形を成していった。


「グォーー!」


 パッっと色が付く様に、紫の霧がカンガルーに変わったと思ったら、直ぐに近くにいた敬太に気が付いた様で、直ぐに襲い掛かって来た。モンスターとして産まれた瞬間から、しっかりとモンスターとして働く様だ。


 出していたゴーレム達に壁をさせ、部屋の出入り口付近に陣取り、ミスリルの槍で応戦していく。1匹1匹、槍で突き、倒す度にカウントしていき、18匹目のカンガルーを倒すと部屋の中は静かになっていた。


 もう一度【探索】を使い11階層の様子を伺ったが、他にモンスターの反応無く、今日の分のリポップを倒し終えた事が分かった。


 どうやら、この部屋にリポップしたモンスターが固まっていたという事なので、11階層は罠が仕掛けられる階層の様だ。9階層で止まっている電線を引っ張ってきて、蛍光灯を付けて回り、罠を仕掛ける事になるだろう。これまた忙しくなりそうだ。



 それからその足で、そのまま12階層に向かうと、持って来ていたガソリンでポリタンク作戦を決行する。


 三差路の通路から、今度は右の通路に進む。そして、部屋に一旦顔を出してキャタピラー達の標的となり大勢を引きつけられたら通路に戻り、そこでゴーレム達に壁となって抑えてもらう。その隙にポリタンクをばら撒き【火玉】で着火して焼き尽くす。前回と同じ流れだ。


 一部屋のキャタピラー達30~50匹に対して10個のポリタンクを使ってみたが、その量で問題なく殲滅させることが出来たので、同じ要領で中央の通路の先にある部屋も同様にして殲滅させた。


 念のために、昨日全部倒した左側の部屋も見に行ってみると、そこには7匹のキャタピラーがいたので、こいつらも通路に引きつけ燃やしておいた。

 この左側の部屋の7匹という中途半端な数から考えると、やはり偶数階層はランダムにモンスターがリポップする可能性が高い様な気がする。

 決まった部屋からモンスターがリポップするならば、7匹という数は1日分のリポップとしては少ないと思うのだ。


 まぁ、この辺の結論は、明日の朝4時には出るだろう。



 12階層の各部屋から先へ伸びている通路は、1本の通路へと繋がっていて、三差路の何処から進んで行っても、この1本の通路に繋がるようになっていた。

 そして、その先には13階層へと続く下りの階段があり、勢いのまま進んでしまおうかと思ったが、今日は早起きをしたので朝飯がまだだった事をグーっと鳴った腹が教えてくれた。


「朝ご飯にしようか」

「ニャーン」


 敬太の足元を歩くゴルの賛同も得られたので、13階層へと続く階段の前で座り込み、朝食とした。

 モーブ達のご飯も、朝、改札部屋を出る前にテーブルに置いて来ているので、今頃起き出した子供達と一緒に食べているだろう。


 敬太はおにぎりと卵焼きと味噌汁。ゴルにはいつものカリカリと水を出す。


 暗視スキルの【梟の目】は暗い所でも物が見えるのだが、ただ「見える」ってだけなので、敬太の視界は暗視スコープを覗いている様な白黒の世界になっていて、それだと折角のご飯も味気なくなってしまう。なので、ランタンをひとつ取り出し、その小さな明かりの元でおにぎりを食べている。傍から見れば、かなり寂しい姿として映るだろうが、ゴルと一緒に食べているだけで、その辺は何とも感じないのだから不思議な物だ。


「ゴル、美味しい?」

「ニャー」

 

 ゴルの返事はいつも通りだ。ゴルも敬太と同じ様に感じてくれていたら嬉しいな。

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