第71話 交流

 敬太はモーブ達と別れると、ダンジョンへと戻ってきていた。


 モーブと出会い、この異世界の厳しさを知り、かなり戸惑ってしまったが、敬太の腹は既に決まっていた。

 小さな親切大きなお世話かもしれないが、人として触れ合い、話を聞いてしまったのだ。やらない善より、やる偽善。少し手助けをしようと思う。


 モーブは「助けてくれ」とも「何かくれ」とも言わず、黙って去って行った。

 奴隷の身なので迷惑が掛かると思ったのか、敬太が黙り込んでしまったので重荷になってはいけないと思わせてしまったのか、どちらにせよ敬太には真似が出来ない潔い去り方だった。


 追っ手やら奴隷狩りなどから逃げ隠れしている孤立無援の状態で、敵では無い第三者の敬太に会ったのだ。本当ならば喉から手が出るほど支援が欲しいに違いないだろう。だが、モーブはそんな弱音を一言も吐かずに去って行ったのだ。


 現在、敬太はダンジョンに仕掛けた罠のおかげで、毎日200万円近くのお金を稼ぐ事が出来ている。その中から食べ物の支援ぐらいならば、やっても罰は当たらないだろう。


 そんな訳で、敬太は今モトクロスバイクの後ろに新たに荷台を取り付けていた。

 今まではシートバッグを積んでいたのだが、もっと容量を増やすために、荷台を取り付けシートバッグの他にサイドバッグも取り付けるのだ。なんだかキャンプに向かうツーリングのバイクの様になってしまったが、これで多少の食料なんかを運べる様になるだろう。


 荷台を付け終えると改札部屋に入り、ネットショップでハムとかベーコンとかの日持ちしそうなお肉、ピーナッツとキャラメルが入ったチョコバーなど栄養価が高く嵩張らないで日持ちするような非常食っぽい物。それらをモトクロスバイクに取り付けたバッグの容量と相談しながらポッチっていく。


 カートに入れた物をススイカ決済すると、いつもの様に物置の取っ手の上の部分が点滅してあっという間に荷物が届く。

 ネットショップで買った物を荷解きして、余計な梱包を外し、モトクロスバイクの後ろのバッグに詰め込んでいく。


 これだけあれば、しばらくは大丈夫だろう。



 

 翌日、日課のピルバグを狩りを済ませてからテーブルのデリバリーを使い、食パン、惣菜パン、菓子パンなんかを大量に注文して、新しく買った大きな登山リュックの中に詰め込む。


 背中にパンが詰まった登山リュックを背負い、前にゴルが入ったハードシェルバッグを抱えてモトクロスバイクに跨り、ダンジョンから駆け出していく。


 入口を出ると、まずは西側の大きな石へと向かい、ゴーレムの核LV2を使い石ゴーレムを作り出す。これは新しく加わった日課だ。1日に1体、石ゴーレムを増やしていく。


 そこから今度は東に向かう。もちろん先日のモーブの所に向かうのだが、道中は探索もしながら進んでいく。まだ頭に浮かぶ地図を埋めきってないので、なるべく色々なルートを通って行きたいのだ。


 東に進んでいくと、やはりと言うべきなのか崖に阻まれた。これで東西南北に崖がある事が分かった。

 今まで調べ出した頭の中の地図の全体像を見ると、なんとなく崖が円形状に取り囲んでいるように見え、そこから推測すると巨大なカルデラの様に見える。


 大きな円形の火口のような窪地。大昔の火山活動により出来た窯のような地形。

 周りをぐるりと崖に囲まれているのも、これで説明出来るだろう。

 ここに雨水なんかが溜まれば、カルデラ湖となる。


 地図、地形が好きな敬太からすると面白い発見なのだが、まぁこういう事はサングラスをかけたおじいちゃんに任せておけばいいだろう。


 東の崖を左手に見ながら、南東方向に進んでいく。

 緩いカーブを描きながら永遠に続くように連なっていた崖だが、突然その姿を消し、崖が崩れた場所に出た。どうやら昨日発見した場所に辿り着いたようだ。


 辺りには崖が崩れた残骸が散らばっていて、先には下り坂が続いている。

 遠くの方には小さな川が見え、その川沿いに下るとモーブと出会った森がある。




「おーい!モーブいますかー!」


 森の中に入り、モーブと出会った辺りに辿り着くと、モトクロスバイクのエンジン音が鳴り響く中、敬太は大声で叫んだ。

 だが、周辺からは何の反応も無い。


「おーーーい!」


 ゆっくりと森の中を移動しながら声を張り上げ続ける。

 5~6回程声を上げたあたりで奥の方の草がガサガサと動くのが分かった。

 すぐにモトクロスバイクのエンジンを切って、再度声をかける。


「おーーい!モーブ。昨日の『迷い人』でーす!」

「聞こえておるわ。いったい何の用じゃ、あまり大声を上げて目立つような事はしないで欲しいのじゃが」

「あぁ、すいませんでした」


 声を落としてモーブに謝る。

 それもそうか。モーブは逃げ隠れしているのだ。

 自分の「何かしてやる」という感情に突き動かされて、相手の事情をおろそかにしてしまったらしい。これは反省しなければいけない。


 敬太は気を取り直して話を続けた。


「良かったら、ご飯一緒にどうですか?」

「うむ。飯か」


 片腕のモーブは、持っていた木の棒を脇に挟み、残っている手でアゴを触っている。


「少し多めに持ってきているので、子供達の分もありますよ」

「そうか、それは助かる。それじゃあ付いてきてくれ」


 モーブは敬太の言葉に反応し、ひとつ頷いてから草むらの中に入って行った。

 敬太も後に続きモトクロスバイクを押して草むらの中に突入して行く。


 ガサガサとしばらくモーブの後に付いて行くと、パッと開けた場所に出た。

 草を踏み倒しただけの6畳ぐらいのスペース。そこに子供が4人、身を寄せ合っているのが見えた。


「どうだった?」

「なんだおっちゃんか~」


 モーブが姿を現すと子供達が口々に騒ぎ始める。

 敬太もモーブの後を追い、モトクロスバイクのスタンドを立てて、開けてるスペースに入る。


「あっ、ゴルベの人」

「ゴルベのおっちゃんだ」


 まあ、歓迎されていると思っていいだろう。

 モーブが踏み倒した草の上に胡坐をかいて座ったので、近くまでいって背負っていた登山リュックの中身を全部ぶちまける。


「何が良いのか分からないので、一通り持ってきたので食べてみて下さい」


 敬太は惣菜パンやら菓子パンをばら撒き、皆に声をかけたのだが、誰も手を出す様子が無く、パンを食べる文化じゃなかったのか?と一瞬考えたが、子供達の目はパンに釘付けとなっていた。


「うむ。獣人の間では、このような時、お主から食べ始める決まりがあるのじゃ。なので、お主から手に取って食べ始めてくれないか?」

「分かりました」


 そういう決まり事があるから、誰も手を出さなかったのか。


 ならばと、敬太は目に付いた菓子パンを手に取り、袋を開けガブリと一口齧り付いた。すると、ワッと一斉に手が伸びてきて置いてあるパンを奪っていく。

 その勢いにちょっとだけビックリしてしまい、体を引いて様子を眺めていると、子供達はパンが入っているビニール袋ごと齧りついていたので、今度は慌てて止める事になった。


 まさか袋ごといこうとするとは思わなかった。

 驚き半分呆れ半分になりながら、ビニール袋は食べられないと説明してやり、そうしてようやく子供達がパンを口にし始めた。


「柔らか~い」

「美味しいね」

「甘----い!」


 子供たちは喜び、次々とパンを取り食べている。

 片腕のモーブを見ると、器用に片手でビニール袋を開けてパンを食べていた。子供の様にがっつきはしないが、それでも目を細め美味しそうな表情をしていた。

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