第54話 広い部屋

 自分の鑑定をしながら、MP切れを起こす手前で試し打ちを切り上げて、改札部屋へと戻る事にした。


 体育館部屋を後にし、階段を下りていくと踊り場辺りで動く大きな影が見えた。

 敬太は驚いて体を強張らせたが、影からひょこり出てきたのはゴーレムだった。


「お前かよ!」


 ゴーレムはシュタっと手を上げて答える。どうやら階段に土を被せ、段差を無くしながら上って来ていたようだ。短い足でもやれば出来るじゃないか。


「帰ろうか」


 今ゴーレムにやってもらう様な急ぐ仕事では無いので、一緒に改札部屋へと戻って行く事にした。



 改札部屋に戻るとゴーレムは扉の側に突っ立ったままでいるので「休んでていいよ」と声をかけると、短い足を放り出してお尻を床に付けて座った。


 なんだか不思議なやつだ。




 

 翌日、朝ご飯を済ませ改札部屋から出発する。


「いくよ~」


 ゴーレムに声をかけるとパッっと立ち上がり、テコテコと敬太の後をついてきた。足が短くちょっと歩くのが遅いので、ゴーレムのペースに合わせてゆっくりと歩いて行く。


 今日は、改札部屋の扉から左手側に進み、トンネルに入り、そのまま左と右に分岐がある分岐部屋に入った。


 ここまで蛍光灯を設置したおかげで、道中明るく警戒も最低限で済むので、散歩気分でダンジョン内を歩けるようになっていた。


 一旦、右手側のトンネルに入り、ブレイドラビットの罠の具合を確認していく事にする。

 トンネル内にはコンクリートブロックで作った壁があり、先にある絨毯部屋を封鎖している。

 壁の真ん中にある分厚い木の戸のつっかえ棒を外して、部屋に入って行く。


 絨毯部屋はあらゆる所に電線が張り巡らされていて、ブレイドラビットの姿は見当たらない。ちゃんと罠が働いてる証拠だ。

 それから、電源や熊用電撃装置もチェックして問題がないか確認して部屋を出る。


 分厚い木の戸を閉めつっかえ棒をして、分岐部屋に戻った。


 そのまま真っ直ぐ進み、分岐部屋の左手側のトンネルに入って行くのだが、ここからは電気を通していないので真っ暗になっている。

 最近ずっと蛍光灯のそばで作業していたので真っ暗な所は久しぶりな気がした。

 少し気を引き締めてハンディライトで先を照らしながら進んだ。


 トンネルは中は大きく右に曲がっていて、曲がった先にはブレイドラビットが1匹潜んでいた。


 敬太は素早くクロスボウを構え離れた位置から矢を放つ。

 矢は音もたてずにブレイドラビットに突き刺さり煙に変えていく。

 そんなにクロスボウの練習をした訳ではないが、今の所狙い通りに矢が飛んで行ってくれるのでちょっと楽しい。連射出来ないので使う場所が選ばれるが、あると心強い強力な武器だ。


 ブレイドラビットが煙と共に消えていき、刺さっていた矢が地面に落ちたので回収して先に進む。


 トンネルを抜けると階段がある部屋に出る。素早く室内を照らし確認すると、ここにもブレイドラビットが3匹潜んでいた。


 クロスボウの先端にある輪っかに足をかけ、弦を引っ張りフックに引っ掛ける。その際カチッっと音がするのでフックに引っ掛けられたのが簡単に分かる。

 本体の溝に40cmの矢をセットしたら、銃床部分を肩につけグリップを握り構え、狙いを付けてトリガーを引く。


 慣れればもっと早く一連の動作ができ、次の矢を放てるようになるのだろうが、今の敬太では一度射ると他の奴等に接近されてしまい、次の矢を準備する余裕はなかった。

 クロスボウを地面に置き、残った2匹は木刀で仕留める事となった。


 ブレイドラビットを倒したら、念の為もう一度室内をライトで照らし、討ち漏らしが無いか確認する。闇の中から突然突っ込まれるとか勘弁して欲しいのだ。



 何もいない部屋の中を歩き、下り階段へと進んだ。

 何段か階段を下りパッと後ろを振り返ると、思った通りゴーレムが段差でワタワタしていた。


 丸い体に極端に短い足で、段差を下りる事も出来なかったようだ。

 敬太は引き返しゴーレムに話しかけた。


「このハンドスコップで土を盛って、階段を埋めて坂道にしちゃうんだ。そうすればお前も下りてこれるだろう。昨日みたいに一人で出来るかな?」


 ゴーレムは丸い手をシュタと挙げて敬礼ポーズ。やる気満々のようだ。


「この辺りにモンスターはいないと思うから、ゆっくりでいいからね」


 ゴーレムを階段に残し、敬太は先に進んだ。


 階段を下りきると広い開けた部屋に出る。ここにはロウカストという手漕ぎボートぐらいの大きさのバッタが出るのだが、一度倒した事があるだけで、この部屋の大きさも把握出来ていないし、他に何がいるのかも分かっていない。


 ここからは気を引き締めて望まないといけない場所だ。


 敬太は初心に帰り、左手側の壁沿いを歩いていく事にした。

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