第20話『知井子の悩み10』
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな!・20
『知井子の悩み10』
オーディションは審査に入り、受験者たちは控え室にもどった。
この審査が長引いた。
オーディション終了直後は静かな興奮だった。化粧前に座っても、無意識にリズムをとったままの子。スマホや携帯を出して、親や友だちに連絡を入れる子。やたらにスポーツドリンクを飲み始める子。様々だけれど、静かにみんなの注目は、知井子と、拓美に集まってきた。
しかし、当の本人の知井子と拓美は気づいていない。全力を出し切って、呆然としている。
マユは、知井子のお付き合いに戻り、冷静に彼女たちを見ていた。不思議なことに、知井子と拓美への嫉妬心は、ほとんど無かった。二人のことをスゴイと思いつつも、自分たちが全力を出せたことへの満足と、審査結果への期待と不安に満ちていた。
――やっぱ、人間て素敵だ。魔法も使わずに、ストイックな努力だけで、ここまでやるんだ。
そのとき、戒めのカチューシャから、マユの頭の中にメッセージが入ってきた。
――少しは分かったようだな。しかし、やったことの後始末は、きちんとつけなさい。
声は、メフィスト先生だった。マユの担任悪魔で、マユを人間界に落とした張本人。
「ありがとう、気持ちよく唄えたわ。もう思い残すこともない……送ってくれてもいいわよ」
拓美が、目を潤ませ、しかし、しっかり覚悟のできた声で、横顔のまま言った。
「わたしは半日って言ったのよ。まだ時間は十分あるわ、審査結果を聞いてからでいいわよ」
「う、うん……ありがと」
うつむいた拓美の表情は分からなかったが、膝に落ちた涙で、気持ちは分かった。
知井子が、そっとハンカチを差し出した。
ノックがして、スタッフのオニイサンが入ってきた。
それだけで控え室のみんなの神経は尖り、女の子たちの視線がオニイサンに集中した。
「あ、あの、お弁当……審査発表まで、ちょっと時間かかるんで」
お弁当は人数分しかない。つまり、本来は居ないはずの拓美の分で足りなくなってしまったのだ。
おちこぼれの小悪魔のマユは、そこまで気が回らなかった。さっそくメフィスト先生の言葉が蘇る。廊下にキャスターに載せられた、お弁当の段ボールの山が感じられた。
マユは、急いで魔法をかけた。廊下のお弁当を一個テレポさせ、足りなくなった廊下のお弁当の一つを二つにした。見かけだけを二つにしたので、味は半分になっている。食べた人は、自分が味覚障害になったかと思うだろう。並の悪魔なら、全部のお弁当のエッセンスから均等に取って一個のお弁当を作る。マユはまだまだおちこぼれであると思ったが、イタシカタナイ……。
お弁当が配られ、控え室のみんなは、やっと年頃の女の子らしくなってきた。
あちこちにグル-プができて、年齢にふさわしい賑やかさになってきた。マユは、知井子と拓美と三人で、お弁当を食べた。その三人の小グル-プの中でも、知井子はお喋りの中心になった。マユは自分のことのように嬉しく、知井子は、この数か月で伸びた身長以上に大きく頼もしくなったような気がした。
お弁当を食べ終えたのを見計らったように、一人の女の子が近寄ってきた。
胸には受験番号①のプレートが付いていた。
「わたし、大石クララって言います……」
その子は、見かけの可愛さの裏に、男らしいと言っても良いような清々しい心映えを感じさせた。
大石クララが、ペコリと頭を下げた。
――不味い! なんだよ、この味のうすさは!
同時に、味半分のお弁当を口にしたスタッフの思念が飛び込んできて、慌てふためくマユであった。
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