第13話『知井子の悩み・4』

小悪魔マユ・14

『知井子の悩み・4』



「マユ、あったわ!」


 知井子が群衆の中から、這うようにして薬の小瓶を探して持ってきた。

「あ、ありがとう」

 おきて破りの蘇生魔法を施していたマユは、戒めのカチューシャに頭を締め上げられ、気絶寸前だった。

「おじいさん、このスポーツドリンクで……」

 しかし、発作が3分近く続いているおじいさんは、自分で薬を飲む力もない。

「それ、寄こして!」

 マユは、知井子からスポーツドリンクを取り上げ、口に錠剤を含み、口移しでスポーツドリンクごと飲ませた。


 おじいさんは、しばらくすると、息も整い、元気になった。


「だいじょうぶですか、なんなら救急車よびますけど」

 今頃になって、駅員さんがやってきた。

「それには及ばん、この子達のお陰で助かった」

「でも……」

「いいと言ったら、いい!」

 おじいさんが睨みつけると、駅員さんはスゴスゴと行ってしまった。

「すまんな、こんなジジイに、口移しで飲ませてくれたんだね、キミもせっかくの洋服を汚させてしまったなあ」

「あ、いいんです……こ、これ、オバアチャンのお古ですから」

「お古に、タグが付いているのかい」


 知井子のゴスロリにタグが付いたままだということに、マユは初めて気が付いた。


「じゃ、わたしたち、ここで……」


 マユと知井子は、息子さんが勤めているというビルの前までやってきていた。おじいさんもピンシャンしているので、もういいだろうと思ったのだ。

「それじゃわたしの気が済まん。息子にも君たちに礼を言わせたい」

 というわけで、マユと知井子は、そのビルの三階まで付いていくことになった。


 エレベーターのドアが開いて、二人は驚いた。


 目の前が、HIKARIプロの受付になっていた。

 HIKARIプロと言えば、東京、大阪、名古屋などにアイドルユニットを持って、急成長のプロダクションだ。

「黒羽を呼んでくださらんか」

 タバコでも買うような気楽さで、受付のおねえさんに言った。

「黒羽と申しますと……」

「チーフプロデューサーとかをやっとる黒羽だ」

「あの、失礼ですが。アポは……」

「わしは、黒羽の父親だ!」


 黒羽英二……マユも知井子も驚いた。


 黒羽英二と言えば、HIKARIプロの大黒柱、今売り出し中のアイドルユニット生みの親。そして、マユには分かった。さっきまで、地下鉄の入り口で人待ち顔で立っていた、プロデユーサーであることに……。


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