第6話『ダークサイドストーリー・2』

魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな!・6

『ダークサイドストーリー・2』




 突然時間が止まった。


 チョークを拾い集めている片岡も、それを手伝っていた生徒達も、中腰や屈み込んだ姿勢のまま停まってしまった。窓から見える飛行機も空中で止まっている。


「これ、あんたが……?」

「あんたじゃないの……?」


「あんたのほうが、一瞬早かったようだけど」

「……良く見て、あの飛行機」

 マユは、窓から見える飛行機を指差した。



「え……ああ」



 利恵も分かったようだ。飛行機は少しブレた写真のように、かすかに二重になっていた。

「どうやら、同時に時間を止めてしまったようね。0.01秒あたしの方が早かったみたいだけど」

「みたいね、飛行機のブレてる頭は、ダークサイド色してるもの」

「戻すの大変ね。タイミング合わせないと、ブレたままの飛行機がブレたままの飛行場に着陸することになっちゃう」

「それって、きっと大事故になる」

「海の向こうじゃ、自由の女神が双子になってるかもよ」

「やばいよ……」

「だよね……」

 

 ちょっと説明がいる。


 時間を止める力は、天使にも悪魔にもある。複数の天使や悪魔が時間を止めた場合、力の強い方の効果が出るので、ブレるようなことはない。

 しかし、ごくごく希に、力が同等であった場合、そして時間を止めたタイミングが0.01秒以下であった場合、時間がだぶって止まってしまい。それは距離に比例し、地球の裏側では、200メートルぐらいのブレになってしまう。大昔、サタンとミカエルが戦ったとき、これをやらかし、その時は太陽がダブってしまった。世界各地の神話や言い伝えに「太陽が二つになった」というのがあるのがそれである。



 つまり、落第悪魔のマユと、落第天使の利恵は、有史以来めったにない事故をやらかしてしまったのである。


「早く修正しないと、またエライサンに大目玉だわよ……」

「こないだ、校長先生の髪の毛事件やったとこだもんね……」



 二人は、イヤイヤながら手を繋いだ。そうしなければ、同時に時間を再起動できないからだ。



「好きで、手を繋ぐわけじゃないんだからね……」

「あったりまえじゃん!」


「じゃ、いくよ……」

「うん……」

「3、2、1……GO!!!!」

 二人の落第生は、目をつぶり、互いの神経をシンクロさせて気合いをかけた。



「あんたたち……なにしてんの?」


 階段を降りてきた知井子が不思議そうに聞いた。

 気がつくと、片岡先生も、チョークを拾い集めていた生徒達も、とっくにいなくなっていた。

「な、なんでもないわよ!」

「そ、そう、なんでもないんだから!」

 二人は、慌てて手を放した。次の便だろうか、空を行く飛行機はダブってはいなかった。


 水道で手を洗いながら、マユは思った。



――あいつの心、意外なほどあたしに似ていた……。



 手洗いの鏡に写る自分の顔が、落第天使のそれとダブって見えた。

「……そんなことってあり得ないんですけど!」

 ピシャリと、自分の頬を叩いて、マユは手洗いをすませた。


 同じ頃、もう一階上の手洗いで、落第天使の雅部利恵もゴシゴシ手を洗っていた……。




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