第311話 世界情勢(2)


「陸将?」


 そう言われても俺には自衛隊の階級なぞ分からないが……。


「はい。トップに近い人です」

「なるほど……」


 内心、溜息をつく。

ピーナッツマンとしての立場もある。


「菊岡陸将、何か?」

「ピーナッツマンさんには、お願いしたい事あります」

「俺に?」

「はい」

「そのお願いというのは、鳩羽村ダンジョンを潜ってからでは駄目なのか?」

「緊急です。現在の日本では早急に対応できるのがピーナッツマンさんしかいないと夏目総理も申しておりまして――」


 俺だけ? 厄介事は困るんだが――。

 それに俺にとっては佐々木を探す以上に重要な事はない。

 何せ佐々木の身に何かあれば松阪牛を使った牛丼を食べられなくなるんだぞ? その点を、この目の前に立っている男は理解しているのか?


「それは国の仕事だろう?」

「分かっています。ですが! 緊急事態ですので!」


 俺の言葉に、表情を曇らせる菊岡陸将。

 その顔は、いかつく眉も太く年齢も50歳近いことから、睨まれる印象を受けるが――。


「――ん?」

「今回の――、ピーナッツマンさんへの依頼は日本国政府からの正式な依頼という形をとっています」

「なんだと?」

「本来であればレベルの高い探索者を有しているギルド『戦国無双』にお願いするところでしたが、それが出来なくなりましたので――」

「ふむ……」


 犯罪組織と裏で繋がっていたギルドに日本政府が仕事を頼むのは、政治という立場から見て色々とマズイか。

 

「他のギルドもあるんだろう?」

「あるにはありますが……」


途中で口を閉じる宮下防衛大臣。

そして指先で、室内でノートパソコンを操作している女性へ合図を送ると頭上から巨大なモニターが下りてくると同時に部屋の中が暗くなる。


「現在の状況を詳しく説明させて頂います。菊岡陸将」

「はい。それでは――」


 立ち上がり指示棒を伸ばすと同時にモニター上に日本地図が表示されたあと、赤い光点が無数に表示された。


「これは?」

「説明させて頂きます。いまから一日前に世界中のダンジョンの活性化が認められました。それに伴いダンジョン内において多くの探索者の死者が出ています」

「世界中?」

「はい。理由は不明です。ただ、いままでの武器や防具ではダンジョン内で探索が出来ないという報告が上がっており――、それとダンジョン内からモンスターが出てきています」

「ダンジョン内から?」

「これは日本でも例外はありません。分かっているだけでも日本国内のダンジョン内だけで8219人が行方不明になっており、これからもその数は増加の一途を辿ると考えております。そしてダンジョンから出てくるモンスターを食い止める為に高レベルのギルドにはモンスターから地上に上がる階段を死守して頂くように依頼済みです」

「つまり、防衛はできるが攻略までは出来ない? と、いうことか?」

「そうなります。ピーナッツマンさんには、元・Sランクのダンジョンの攻略を最優先に依頼したいというのが日本政府の考えです」

「なるほど……、言いたいことは理解した。――で! レベル1000を超える陸上自衛隊の連中を鳩羽村ダンジョン前に展開していると言う事か?」

「はい。防衛程度でしたら、アンチマテリアルライフルの射撃で何とかなりますので……」


 思わず溜息が出る。

 たしかにレベル1000を超える自衛隊員では、ダンジョン内での戦闘は厳しいだろう。

 それよりも――。


「残念ながら、まずは鳩羽村ダンジョンの攻略が最優先だ」

「――そ、それは!? 日本国政府からの依頼だと申し上げたはずですが――」

「悪いが、俺は国などの権力に媚を売るつもりはない。それと、俺には鳩羽村ダンジョンの方が優先度は高い」


 何せ佐々木の身が安全かどうかを調べる方が重要だからな!

 主に牛丼の為に!


「それは……、親しい方が行方不明になったと言う事だからですか?」

「お前には関係の無い事だろう? それに俺は自衛官でも公務員でもない。俺は鳩羽村ダンジョンの攻略に進ませてもらう」




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