第292話 撤退戦(3)相沢side

 私の名前は、相沢(あいざわ)凛(りん)。


 鳩羽村出身で、県外の夫と入籍したあとは小料理屋を始め――、珍しい食材があるダンジョンに夫は冒険者として潜り行方不明になった。

 日本では、ダンジョン内での生死は自己責任と言う事になっていて、夫が帰ってこなくても、周囲は仕方ないと割り切っていたけれど……、互いに両親が既に他界している私にとっては、簡単に割り切れる問題ではなかった。


 私は、すぐに日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部の方に夫の捜索依頼を頼んだ。

 例外ではあったけれど、それなりの報酬さえ払えば高ランクの冒険者にダンジョン内で行方不明になった人を頼むことが出来たから。


 依頼を頼んだ所、日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部の宮本という方は、事件性は無いと依頼を受け取ってくれなかった。

 それから、夫がダンジョンから無事に生還したという記帳された書類を見せてきたけれど――私には、それが信じられなかった。


 夫が、何も言わずに失踪するなんて信じられなかったから。

 私は自分が強くなりダンジョン内を探索すればと仕事の合間に探索者講習を受けて探索者になってからは定期的にダンジョンに潜りモンスターを倒していた。

 だけど、夫と思い出のある小料理屋を休む訳にはいかなかった。


 しばらくして、鳩羽村を含めた周囲の山々を保有している佐々木本家の方が行方不明になったと話を聞いた。

 なんでも旅館『捧木』の跡取り娘が居なくなったと村では噂されていて、それは私の学校の後輩。

 夫と同じに行方不明になったのかと思い少しだけ望さんの母親に同情してから数年が経過した。

 ダンジョンには潜り続けているものの、今だにレベルは7。

 最初は、パーティに入れてくれていた人も、いまではレベルは100を超えていてレベル差がありすぎる為に、ダンジョンには一人で行くようになってしまった。

 ただ、一人では余計にレベルが上がらなくなり、私は日に日に焦燥に駆られるようになってしまい――、その時に出会ったのが山岸直人という人物。


 彼は、酔いつぶれた時に冒険者カードを落す。

 私は何も考えずに彼の懐から床の上に落ちた冒険者カードを手に取る。


 そこにはSランクという文字が書かれていた。

 それは――、日本ダンジョン探索者協会が認めている冒険者の中でも最高ランクの人物。


 ――だから、私は一計を講じた。


 最初は肉体関係を持って同情から夫の探索をお願いしようと思った。

 だけど……、それは出来なかった。

 そんな不貞な行いは出来ないから。

 次に、同情から依頼をしようとしたけれど、それも上手くはいかず――、彼は泊まっている旅館に戻ると言い出した。

 私は、せっかく手にいれた縁を逃すことは出来ず彼との繋がりを何とか持とうと泊っている宿まで車で送り届けた。


 そこで私は、行方不明になったと噂に聞いていた彼女――、学校の後輩でもあった佐々木望と出会うことになる。


 彼女は、最後に出会った時よりもずっと綺麗になっていて、同じ女性でも羨むほどで――。

 

「先輩っ!」


 その視線は、山岸直人さんに向けられていて――、すごく嬉しそうで幸せそうな表情で――、そんな彼女を見た瞬間に私は胸がズキッ! と、痛みに襲われた。


 きっと、それは――、嫉妬だったのかも知れない。






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