第272話 鳩羽村ダンジョン攻略(10)

「やれやれ――、これだから日本国内でも屈指の楽なダンジョンには碌なレベルの冒険者が来ないんだ」

「そうか、それは良かったな」

「おい! どこに行く!」


 余計な問題事を起こしても仕方ないと思い、その場を立ち去ろうとした男が俺の肩を掴んでくると共に引っ張ってくるが――。


「動かない!? ――な、なんだ!? こ、こいつ……」

「離して貰いたいんだが――」


 俺は男の手を右手で払う。

 それだけで男は後ろに数歩――、たたらを踏みながらよろける。


「――っ!?」

「藤岡、何をしているんだよ!」


 ソイツのパーティメンバーだろうか?

 数歩だけ後ろに下がった藤岡に対してパーティメンバーであろう連中が笑いかけている。

 だが――、それで完全に俺を敵として定めたのだろう。

 俺を睨みつけてくる。


「お前……、大した冒険者でも無い癖に――、素材買取店すら知らない初心者の癖に俺を愚弄して……」

「別に愚弄も何もしていない。お前が、勝手に俺に絡んできただけだ。あと、ギルド名を間違えたことに対しても謝罪をしたはずだ」

「くっ!?」

「君達、やめなさい!」


 俺と『戦国無双』のギルドに所属している人間が争っている状況を見かねたのか日本ダンジョン探索者協会の人間が割ってはいってくる。


「ここは、ダンジョン内で休息が出来る場所だ。そして、ここでは日本の法律が適用とされているし、日本ダンジョン探索者協会でも探索者同士のいざこざは許可していない。これ以上、問題を起こすようなら君達二人を処罰――、許可証の取り消しを行うことになる!」「くそっ!」


 さすがに日本ダンジョン探索者協会が発行している許可証を取り消しされるのは困るのか藤岡と言う男は悪態をつくと去っていく。

 やれやれ――、どうして俺が絡まれないといけないのか。

 それよりも、ずいぶんと沸点の低い奴だったな。

 

「君も気を付けるように――、君は知らないかも知れないがギルド「戦国無双」は、かなりの規模のギルドだからね。ここは休息の場所だからいいけど、ダンジョン内に潜るのなら、格上の相手には喧嘩を売るのは止した方がいい」

「それは、ここでは無い階層だと攻撃される可能性があるという事ですか?」

「そういう可能性もあるというだけだ。少なくとも大きなギルドには目をつけられないようにすること。それが賢い探索者の生き方というものだからね」

「分かりました。気を付けます」

「分かってくれたならいい」


 まぁ、俺としても変な輩と関わりになるのは避けたい。

 それに余計な問題を起こして調べられても困るからな。

 すぐに、その場を離れる。

 20分ほどで広間を見終わった俺は、相沢が取ってくれた宿泊施設に戻ることにし――、3階まで跳躍したあとは、そのまま部屋に転がり込む。


「まだ相沢は戻ってきてはいないか」


 とりあえず普通にダンジョン内を攻略する分には、色々とルールがあるようだ。

 それだけ分かっただけで十分な収穫。


「ただいま戻りました」

「風呂はどうでしたか?」

「はい。素晴らしかったです。ダンジョン内で入る温泉もいいですよね?」


 どうやらダンジョン内には普通に温泉があるらしい。


「なるほど」

「そういえば山岸さんは部屋の中にずっと居たんですか?」

「ええ、まあ……」

「それは良かったです」


 良かった? どういうことだ?


「じつは、さっき聞いた話ですけど――、なんでも……、ギルド「戦国無双」の中でも武闘派に位置する藤岡史郎が来ているそうなんです。ですから、余計な問題が起きたら大変かと思って……」

「そうですか」

「はい。ギルド「戦国無双」は、ギルドメンバーが100人を超す大規模ギルドなので、最近ではメンバーの暴走が良くおきていて色々とあるそうです」

「ふむ……」





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