第256話 鳩羽村ダンジョン(1)
……仕方ない。
「正義の為ですかね」
「正義ですか?」
「はい、困っている人を見ると何となく手を差し伸べずにはいられないんですよ」
完全に嘘だ。
この世界に正義なんて物は存在していない。
何故なら、人の立場によって正義の定義なんて幾らでも変わるからだ。
――だが、本当のことを言っても信じてくれないのなら、適当に話を創作した方がいいだろう。
「なるほど……」
どうやら一発で信じてくれたようだ。
チョロすぎないか?
「つまり、山岸さんは望ちゃんが困っていたから大切だから助けたという事ですか?」
「まぁ、そんなところです」
「それなら納得です。それにしても、望ちゃんを何とも思っていないような言い方は本人が傷つくと思いますので言わない方がいいですよ?」
「そうですね。気を付けます」
「だいたいですね! いくら恥ずかしいと言っても言ったら駄目な事があるんですから!」
どうして、俺は説教を受けているのか。
「分かっています」
「分かってくださればいいんです。私も、余計なことを言ってしまってごめんなさい」
「いえ、気にしないでください」
それにしても、変な方向に話が向かってしまったな。
「――ところで、山岸さん」
「何でしょうか?」
「旅館で使われているようなダンジョン産のアイテムは希少アイテムって聞きましたけど、それって――」
「ああ、あれは佐々木が貝塚ダンジョンを攻略した時に手に入れた物ですよ」
「そういえば、望ちゃんは世界で初めてダンジョンを攻略したすごい人ですものね。――でも……」
そこまで話したところでジッと俺を相沢さんは見てくる。
「どうしても納得できない事があります」
「納得できないこと?」
「はい。望ちゃんは、小さい頃から家庭的な子でした。とてもダンジョン攻略に邁進するような子ではありませんでした。もしかして――」
「……」
「もしかして山岸さんは――」
この反応――、もしかして……、佐々木がダンジョンを攻略したというのを怪しんでいるのか?
だが、世界中に佐々木がダンジョンを攻略したという事実は流れているはずで――、疑う余地なんて無いはずだが……。
「望ちゃんは、山岸さんを助けるためにダンジョンを攻略したのではないですか?」
「――!」
「その顔! 私には分かります! ずっとお客相手をしてきたのですから! 山岸さんも冒険者なんですね? それで山岸さんを助ける為に望ちゃんは……」
何だか知らないが話が変な方向に行っているな。
まぁ、勘違いをしてくれるのなら、それに乗っかるのがベストだろう。
「ご推察のとおり。元々、自分と佐々木は陸上自衛隊が開催していたダンジョン講習会に一緒に参加して冒険者になりました。なので――、二人でダンジョンに潜っていたので」
「なるほど、それで――」
その、相沢の言葉に俺は頷く。
「――あ、あの! 山岸さんにお願いしたい事があります」
「何でしょうか?」
「私と一緒に! 鳩羽村のダンジョンに潜ってもらえませんか?」
「ダンジョンに?」
「はい! 貝塚ダンジョンの難易度は知りません。――ですけど、ダンジョンを攻略されるほどの深層に行かれたという事はレベルが高いんですよね?」
「まぁ、そこそこは……」
「お願いです。じつは、山岸さんが以前に酔いつぶれた時にSランク冒険者の――」
ああ、そうか……。
俺が持っていたSランクの冒険者カードを見たのか。
「それで、自分に近づいてきたという事ですか?」
「申し訳ありません」
「いえ、別に構いませんが――」
まぁ、人それぞれだからな。
それに酔いつぶれたのが悪い。
「それで、どうして鳩羽村のダンジョンに一緒に行って欲しいんですか?」
「それは……、旦那の卓也が消えた階層を――」
「つまり、相沢さんの旦那さんはダンジョン内で消息不明になったということですか?」
「はい。――でも、ここの……、鳩羽村のダンジョンは中層まではMAPが配られていて日本でもっとも安全な場所で……」
「それなのに失踪ですか?」
俺の問いかけに彼女は頷く。
「はい。だから、探索を鳩羽村の日本ダンジョン探索者協会に依頼したんです。――でも! 協会から返ってきた答えは、すでに卓也は鳩羽村ダンジョンから出ていて、松阪市の方に向かったと……、でも――、そんなことどしても信じられなくて私……」
「分かりました。それでは、自分がSランク冒険者だということ他の方に言わないのでしたら、鳩羽村ダンジョンに一緒に潜りますがどうですか?」
「本当ですか?」
「はい。どうですか?」
とりあえず、Sランク冒険者だと言う事が分かると面倒になりそうだからな。
手伝って、黙ってもらえるならその方がいい。
「分かりました。それでは、よろしくお願いします」
頭を下げてくる相沢。
さて、久しぶりにダンジョンに潜るとするか。
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