第243話 ホームページ
――貯湯槽を見た翌日――、時刻は、午前10時過ぎ。
俺は、香苗さんから借りているノートパソコンで、藤堂が作った旅館『捧木』のホームページを閲覧している。
「こんな感じで、どうですか?」
「そうだな……」
携帯で藤堂と電話しながらホームページをチェックしているが、素人の俺には正直言ってよく分からないというのが本音だ。
そして、それは藤堂も同じ。
彼女は、技術はあるがWEBデザイナーとしては、経験がない。
つまり素人二人で、旅館のアピールをするホームページを作っている事になる。
「やっぱりプロの力が必要だよな」
「そうですね。やっぱり、その道の方の意見を聞きたいですよね」
藤堂も相槌を打ってくる。
「とりあえず、アクセスカウンターを隠すことはできるか? それぞれのホームページのアクセス数をチェックして傾向と対策を取るとしよう」
「それなら大手通信事業者が提供しているアナリティクスを使いましょう。極力、サイトが重くなるのは避けたいですから」
「そんなのがあるのか?」
「はい。AI解析がメインになりますけど、最近の企業は採用していますよ?」
「なら、それで――」
「分かりました」
「それと、WEBデザイナーとか藤堂の知り合いには居ないのか?」
「いないですね」
「そうか……」
俺にも、そう言った知り合いはいないからな……。
まぁ、本格的に旅館『捧木』の営業を開始するのは、まだ先だからいいが――、本格的に営業を開始する前に何とかWEBデザイナーは確保しておきたいところだ。
餅は餅屋って昔から言うからな。
「山岸さん、話は変わりますが――」
「どうかしたのか?」
「萌絵から話を聞いたんですけど、望さんと一緒に居るんですよね? 萌絵さんが、山岸さんと二人きりで今度デートする! と、言っていましたけど――、私は?」
そんな約束は、まったく! していないが――。
「いや、佐々木と一緒に来たのは不可抗力というか何というか……」
俺だって松阪牛を使った限定ご当地牛丼が食べられるとアピールされたから着いてきただけで、食べられていない時点で俺も被害者だ! 責められる謂われは、まったく! 一切! 無い!
「でも! 一緒に行ったのは本当ですよね?」
「いや、俺も牛丼に釣られて騙されて付いてきたというか……、佐々木のことなんて何とも思ってないし、他意はないんだぞ?」
「そういう言い訳はいいです! 望さんは、女の子らしくて可愛いですもんね! 男の人なら放っておかないと思います! でも! 私だって告白したのに、それなのに黙っていくのは酷いと思うんです!」
「それは、誤解だからな」
本当のことを言ってもまったくスルー。
俺は、牛丼の為だけに来たというのに、言い訳とか言われるし……。
まったく、どうしろと……。
「誤解じゃないです! だって! 望ちゃんの旅館を助けようと全力で頑張っていますよね? それが何よりの動かない証拠です!」
「いや――、ただ単に牛丼を馬鹿にされたから――」
「牛丼で何億も使う人が居る訳がないです! もう少しマシな言い訳をしてください!」
「……はぁ」
何を言ってもダメだな。
「分かった。それで、俺は何をすればいいんだ?」
「――え? あ……」
唐突に語気が弱まる藤堂。
「……ち、千葉の海とか山を題材にして作られたテーマパークとか二人で行きませんか?」
「別に良いが……」
その程度の事で、機嫌がよくなるなら安いものだ。
「約束ですよ! 望さんや萌絵さんには内緒ですから!」
「分かった」
まったく――、どうして俺の周りは人の話を聞かないで曲解する連中ばかりなのか。
電話を切りお茶を啜りながら一息つく。
「ふう……」
「先輩っ!」
少し休もうとしたところで、外へと通じる部屋のドアが開くと佐々木が入ってくる。
そういえば鍵を掛けるのを忘れていたな。
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