第165話 肯定と否定(3)
――俺は曇りガラスを通して入ってきた朝の――、太陽の日差しに目を細める。
そして、眠れずにずっと視界に映っていたシステムログへと視線を戻す。
「信仰が無くなった時に、消滅か……」
口にすれば軽い言葉だが――、自分自身の存在が――、根幹である記憶が曖昧な事も相まって、とても重く感じられる。
おかげで昨日から一睡も出来ていない。
「――それに……」
俺は、自分のパソコン画面を見る。
そこには妹である山岸鏡花が行方不明とニュース欄には書かれていた。
理由は分からないが妹を見つけなければいけないような、そんな焦燥感に似た想いを感じる。
ただ――、それが何を意味するのか分からない。
それでも……。
「行動に移さないとダメだよな」
どこのニュースサイトを調べても妹が見つかったという情報は見当たらない。
つまり、普通の方法では見つけることは出来ないということだ。
それなら、別の方法で妹を探すか?
また、通信系の企業へ就職して?
「何を馬鹿なことを……」
昨日の夜から繰り返す思考の否定しながらも肯定し――、また否定する。
夜刀神を見つけるまでに、20年以上掛かったのだ。
また、それだけの時間を掛けるのはどう考えても効率が悪い。
――それに何より……。
この体が、システムログに表示されているように消滅するのなら……。
そんなに時間は掛けていられない。
それに何故だが感覚的に分かるのだ。
そんなに長くは此岸に居られないという事が――。
「まぁ、鏡花も死んだはずの人間が突然、前に現れたら混乱するだろうからな。だから――」
無事であると一目だけでも見られればそれでいい。
妹を見つけるまでは、少しでも長く現世にいなければ……。
だが、此岸に存在する為に必要な信仰心をどうやって増やせばいいのか? と、言う疑問が沸き上がってくるが――、よくよく考えてみれば伊東市で市民を助けた時に信仰心が上がったことを考えると人の為に行動すれば信仰心は上がるのだろう。
――だが……。
自らの目的の為に――。
明確な個人の利益の為に……、この力を本当に使っていいのか? と、言う疑問もまたある。
考えが纏まらないまま、インターネットでニュースサイトを見ていると昨日に発生した伊豆半島での事件や報道が大きくニュースで取り上げられていた。
日本国政府は、レムリア帝国が起こした大規模テロ行為だと報じており、海ほたるに関しても同様だという見解を崩してはいない。
「アメリカ合衆国が絡んでいるという事は言わない……、いや? 言えないのか……」
たしかに同盟国であるアメリカ合衆国が日本国本土で核爆弾や次世代宇宙兵器である【神の杖】を使ったなどとは言えないだろう。
本当の事を言えば間違いなくパニックになるだろうし……。
「それでも――、釈然はしないな」
真実を告げる事は――、必ずも正しい事とは言えない。
それでも嘘は――、偽りは良いのか? と言われれば答えは出ない。
「いや――、答えは出ているよな」
俺だって目的の為には偽って行動していたのだから、誰かを批難する事なんて出来る訳がない。
まったくお笑いだ。
「鏡花、生きているなら……、どうして姿を消したんだ? 一体、お前は……、どこにいるんだ?」
ベッドの上で横になりながら誰からも答えの返ってくることのない問いかけを自分へと呟いた。
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