第七章

第154話 米国からの来客

「ようやく着いたな……」

「山岸さん、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 

 俺は担いでいる車に乗っている藤堂に言葉を返しながら正面に見える駅名を確認する。

 駅名は、修善寺駅。

 一般人では、上落ち村からは徒歩で5時間ほどの距離。


 だが――、実際は10分も掛かっていない。


 何故なら、江原、佐々木、藤堂そして……、富田を真っ二つにされていたクラウンの後部に乗せたあと抱えながら走ったからだ。


 そして、俺の身体能力を全員が見たが、誰も何も言わなかった。

 それが少しだけ気がかりな部分であったが――。


「とりあえず、ここからは歩いていくとしよう。江原、藤堂は、此処で待っていてくれ。それとくれぐれも佐々木は付いてくるなよ?」

「……はい」


 佐々木は、貝塚ダンジョンを攻略した有名人だ。

 そんなのが、こんな場所でウロついていたら余計な詮索を受ける。

 あとは、江原と藤堂についても【海ほたる】で、市民の誘導などをして有名になっているはずだから、下手に公共機関などを使えば変な勘繰りを受ける可能性だってある。

 

 その点、俺と富田さんは一般人ということで世間的には認識されている事から、問題はないはずだ。


「山岸さん、お金とかはあるのですか?」

「大丈夫だ、問題ない」


 藤堂の問いかけに言葉を返す。

 海に数時間は漂っていたはずだが――、幸いなことにピーナッツマンの着ぐるみは防水性と撥水性に富んでいてくれたおかげで財布は無事だ。

 お金も10万円ほど入っている。


 3人を置いて、俺と富田はレンタカー屋へと向かう。

  

「そういえば、富田さん」

「何でしょうか?」

「クラウンの件ですが……、あれは江原が使ったという事でしょうか?」

「まぁ、そうなりますね」


 どこか落ち込んだ様子の富田。

 まぁ、営業用の車が大破したのだから、落ち込むのも仕方ない。

 それに、江原が使ったという事は許可を出していた俺の責任でもある。

 上司が部下の責任を取るのは当たり前でもあることから。


「富田さん、車の件に関しては自分がお金を出しますので気にしないでください」

「本当ですか!?」

「ええ、男に二言はありません」

「よかった……、リムジンも壊れてしまったので、どうしようかと考えていたんですよ」

「……」


 ………リムジンも?


 おかしい、俺はリムジンを壊した覚えはない。

 投げた覚えはあるが――、あれで廃車になったとは到底思えないんだが……、でも外車は日本車と比べて壊れやすいと聞いたことがある。

 それに、短い付き合いではあるが――、富田が嘘をつくような人間でないことは俺は分かっている。


「それではリムジンとクラウンの修理費というか弁償は、自分の方で支払うのであとで請求書を回しておいてください」

「それは非常に助かります!」

「即金で大丈夫ですか?」

「はい! ぜひ!」


 まぁ、お金はあとで競馬とかで稼げばいいからな。

 二人して道を歩くこと数分。

 ようやく駅が見えてきたが――。


「これは……」


 どうやら伊東市だけでなく近くの村や町にまで被害が出ているようで建物のガラスなどが割れ道路に散乱している様子が視界に入った。


 電車も当然ながら運休している。

 やはり車を借りるのがベストだろう。


 幸い、駅の近くにはレンタカー屋があったので富田の名義で車を借りることが出来た。

 車種は、ランドクルーザー。

 路面の状況なども考えて選定したが――、こんな時期に出社しているとは、さすがブラックな企業が多い日本なだけはある。


 佐々木達を、迎えにいったあと俺達が乗る車は伊豆半島の西側から北上し――、沼津インターチェンジ経由で北上、東名入口を通り首都高を抜けたあとは、京葉道路を南下していく。


 途中、標識に貝塚インターチェンジから先が通行止めになっている表示が見えたが、【海ほたる】で起きた出来事を考えれば当たり前なのだろう。


 ――そして、メゾン杵柄に到着した頃には日は殆ど沈みかけていた。


「ようやく到着か……。富田さん、本当に無理をさせてしまい申し訳ありません。多分年始は何ごとも無いと思いますので――、それと年始が明けて銀行業務が始まりましたら、車のお金はお支払いしますので、請求書を持ってきてもらえますか?」

「わかりました」


 二人で会話をしている間に、佐々木、江原、藤堂が車から降りてくる。

 3人とも疲れた様子を見せているが――、一番憔悴しているのは佐々木。

 見るからに疲れているのは一目で分かってしまう。


 まぁ、契約していた狂乱の神霊樹が消えたのだから仕方ない。

   

 富田が運転する車が走り去ったのを見送りながら溜息をつく。

 まったく長い一日だった。

 どうして、牛丼フェアに行っただけで何度も意味不明な戦闘に巻き込まれるのか。


 自問自答しながら敷地に入ろうとすると――「止まれ!」と、言う声と共に10人もの身長180センチ以上の男達が俺達を取り囲むと銃口を向けてきた。

 

 その服装は――、軍人そのもの。

 だが、その恰好は見たことがある。

 

「アメリカの軍人か?」

「イエス! ミスター山岸、アナタに御同行を願いたいデス!」


 話かけてきたのは女性。

 見た覚えがない容姿の女性であった。


 




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