第116話 はふりの器(15)第三者視点

「まったく――、余計な手間を取らせてくれる」


 仮面の男は、村上社主の後を追いかけながら目撃者の首を次々と刎ねていく。

 その歩みは決して早くはない。

 だが、恐怖からか足が縺れ気味に逃げる村上を追うには十分の速さであった。


 ――そして……。


 村上がエレベーター前で、エレベーターが来るのを待っていたところで追いつく。


「村上、貴様のせいで余計な人間を殺した。まったく、面倒なことはさせないでほしいものだな」

「ひい!」


 そこでようやくエレベーターが到着し、ガードマンが3人出てくるが――。

 ガードマンの首が3個とも空中に舞う。

 

 そして、遅れてガードマンの体が廊下の上へと力なく崩れ落ちる。


「また余計な物を斬ってしまった」

「――き、きさま……、貴様! 一体、何者だ!」

「死にゆく貴様には、俺が誰だろうと関係ないことだろう?」

「――っ!?」


 村上の表情が――、その瞳が絶望に染まる。


「な、なぜ……、だ……」

「――ん?」


 少しでも時間を稼ごうと村上は口を開く。


 理由はエレベーター前には、カメラがあるから。


 カメラは、エレベーター前で起きている現在の状況を警備室のモニターに移している。

 そして、尋常ではない今の現状を警備室に残った人間が見れば警察へと通報が行くことは容易に想像がつくと村上の生存本能が判断したからであった。


「何故……、関係のない人間を――、そこまで簡単に貴様は殺せる?」


 村上の言葉に深く溜息をついて見せる仮面の男。


「貴様ら東京夕日新聞が上落ち村で起きた出来事を隠蔽し、そのことで多大な利益を貴様ら東京夕日新聞は得た。その利益が、会社を大きくし社員に還元された。つまり、被害者から見れば全員関係者であり加害者だ。それだけのことだ」

「たった……、それだけの……」

「加害者にとっては、たったかも知れないな。だが――、被害者から見れば、たったでは済まされない。さあ、大人しく特亜ソーラ開発株式会社関係者の目録を渡せ。さもなくば――」

「わ、わかった!」


 これ以上、時間が稼げないと判断した村上は、近くの経済部の部屋へと入るとパソコンを起動し、データーを参照していく。

 その時間は10分ほど。


 そして、その様子を仮面の男は壁に寄り掛かりながら眺めていると、突然――、部屋の扉が開き10人を超える警官が部屋に突入してくる。

 中には刑事も居り全員が拳銃で武装していた。


「ライブラ! 手を上げろ!」

「やれやれ――。また無駄なゴミが増えたものだな」


 溜息交じりに仮面の男は腰に手を伸ばす。

 それと同時に警官隊と刑事が一斉に拳銃の引鉄を引くが――。

 飛んできた銃弾は全て仮面の男の前で粉を撒き散らして霧散した。


 その様子を見ていた警官や刑事が驚愕の表情を浮かべる。

 銃弾を斬るだけなら! まだ彼らも理解出来ただろう。

 それでも非常識だが――、それでも、まだ理解は出来る。

 だが! 仮面の男の前で銃弾が霧散することなどありえなかった。

 あまりにも非常識であった。

 彼らの常識を遥かに超える何かが起きていた。


 理屈は、ただ簡単であった。

 十数発に及ぶ飛んできた銃弾を刀で数千回切り裂いただけ。

 それを人間が認識できなかっただけであった。


「ようやく理解できたか? 貴様ら警察が追っていたのがどういう存在か? ということが――」


 仮面の男は事実だけを静かに伝える。

 そして――、恐慌状態に陥った突入してきた警官と刑事達は我先にと逃げようとするが――、その全ての頭が空中を舞い部屋の中に転がり、胴体は床へと倒れ込んだ。


 その様子を冷めた目で仮面の男は見たあと、村上へと視線を向ける。


「――さて、村上。これで貴様は立場を理解したな?」

「は、はひぃ」


 死への恐怖からか村上は震える手で、プリントアウトした特亜ソーラ開発株式会社関係者の目録を、仮面の男へと渡す。


「こ、これで――、儂は助けて……ふえっ!?」


 村上が言葉を言い終える前に、その頭は空中を舞い絨毯の上に転がる。

 その瞳からは、死への恐怖からか涙が零れていたが、それを仮面の男は一瞥すると目録を畳みスーツの中へと仕舞う。

 すると仮面の男のスーツのポケットから着信が鳴った。


 仮面の男は電話を取る。


「何の用だ? ――ほう。神居村に……な。それで、この俺に何をしろと? ふむ……、貴様は――、俺が、上落ち村に関わった関係者と、妨害してきた人間以外は殺さないと理解していたと思ったが……」


 不快感を露わにした声色で男は言葉を紡ぐ。

 ただ、次に続く言葉に男は興味を引かれたのか――。


「なるほどな……、それは興味があるな。だが――、もし! その話が嘘であり、この俺を謀っているのであれば、レムリア帝国の帝王である貴様であっても俺は殺しにいくぞ」


 その言葉を最後に仮面の男は電話を切る。


「さて――、虚ろな神とやらの力――、見せてもらうとしようか」


 仮面の男は、笑いながら血に塗れた部屋を後にした。

 


 

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