第113話 はふりの器(12)第三者視点

 藤堂が一歩ずつ階段を登る。

 階段は、きちんと手入れが為されているのか、ゴミなどは落ちておらず目に見える罅などもない。


「きちんと手入れが行き届いているのね」


 彼女は、100段を登ったあたりで呟く。


「そうじゃな。社というのは、朽ちれば邪気に覆われるからな」


 彼女の呟きに答えたのは狂乱の神霊樹。

 現在は、藤堂の頭の上に座って頭上を見上げている。


「ねえ――」

「なんじゃ?」

「あなた、わざと私達に本当のことを話していないでしょう?」

「何のことじゃ?」


 流れるように、藤堂の言葉に答えていく狂乱の神霊樹に、藤堂は深く溜息をつくと――。


「ねえ。祝の器って、神社の神主って私は言ったけど、それ以外にも意味があるんでしょう?」

「別に誤魔化してはおらんのじゃ」

「そう? ――なら、どうして神様の話を持ち出したの?」


 階段を上がりながら藤堂は矢継ぎ早に質問を繰り返す。

 そんな藤堂の言葉に狂乱の神霊樹は肩を竦める。


「別に嘘はついておらんのじゃ。神というのは人々の願いから生まれる存在、そして人の願いから生まれたからこそ神は名を持ち力を行使できるのじゃ。そして神が奇跡と呼ばれる力を振るう為には祭祀の力が必要になるのじゃ。その祭祀や神主を我々は【祝(はふり)】と呼んでおるのじゃ」

「それが山岸さんだっていうの?」

「それは、少し違うのじゃ――、奴は【祝の器】じゃからな」

「どう違うの?」

「さてな――、我も長年生きてきたが実際に見るのは初めてだったのじゃ――」

「長年って……、何年生きてきたの?」

「そうじゃのう、5千年ほどになるのじゃ」

「5千年?」

「そうじゃ、5千年前は――、もっと文明は進んでおったのじゃ」

「進んでいたって……、人間は600万年の歴史があるけど、文明を持ったのはつい最近なのよ?」

「分かっておらんのう。今の文明は、分かっているだけでもせいぜい数千年じゃろう? なのに600万年もの時間が続いて、どうして今以上の文明が存在して滅びたとは考えないのじゃ?」


 その言葉に藤堂は頭を振り口を開く。


「だって、歴史というのはそういうものだから。不確定な予測とか妄想や想像では正しい歴史を伝えることが出来るわけないから」

「ふむ……、まあ――、そう思うなら藤堂、お主の勝手じゃがな――、到着したようじゃな」


 会話が終わると同時に最後の階段を登り切ったところで、立派な門構えが藤堂の目に入って来る。

 門構えの上には寺の名前が書かれており。


「自徳寺……、ここで間違いないみたいね」

「そのようじゃ。我はしばらくお主の髪の中に隠れておるのじゃ」


 藤堂の頭の上に乗っていた狂乱の神霊樹は、藤堂の肩に降りたところで、髪の中へと姿を消す。

 仕方なく、藤堂は自徳寺の門をくぐり抜けて境内に踏み込む。


 まず視界に入って来たのは、大きな桜の木であった。

 冬ということで葉はつけてはいなかったが、樹齢数百年を数えるような大きな幹が――、その存在感を境内に入った藤堂に見せつけている。


「参拝の方ですか?」


 思わず見入っていた藤堂に話しかけてきたのは70歳を超える男性であった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る