第111話 はふりの器(10)第三者視点

「山岸鏡花? ――そういえば、先輩が以前に妹さんの名前を言っていたのを聞いたことがあります。それが、たしか――、鏡花さんだったような……」

「これは何かあるわね」


 藤堂が唇に手を当てながら上落ち村の住所を自身のスマートフォンにメールで転送する。


「こんなのがありました」


 藤堂が作業をしている間に江原が一枚の封書を見つける。

 江原から封書を藤堂は受け取る。

 受け取った封書はすでに開けられている。

 

「これは……、お墓の維持費の領収書?」


 封書には、山岸直人様宛てと書かれており――、それを見た藤堂は眉を顰める。

 そして封書に書かれていた寺院――、自徳寺をパソコンで確認していくが――。


「上落ち村と隣接している守居(かみい)村にある寺みたいね」

「そこと先輩は、どんな関係が――」


 佐々木の疑問に答えられるものはいない。


「どっちにしても、私達には細い糸を手繰り寄せていくしか、山岸さんに繋がる道はないのだから行くしかないわ」

「そうですね」


 藤堂の発言に江原は頷く。

 佐々木も遅れて頷くと、江原の携帯電話が鳴る。


「楠さんから電話です」

「楠から? 日本ダンジョン探索者協会の?」

「はい」

「ちょっと貸して――」


 江原から携帯電話を受け取った藤堂は通話ボタンを押す。


「俺だ、楠だ。今は、どこにいるんだ?」

「藤堂茜です。日本ダンジョン探索者協会所属強行班第7部隊団長の楠(くすのき) 大和(やまと)さんですね?」

「君……、内閣情報調査室所属の……」

「私のことを知って居られるのでしたら話は早いです。一体、いまはどうなっているんですか?」

「それは、こちらが聞きたい! 君たちは、しばらくの間は陸上自衛隊――、木更津駐屯地に居ると思っていたんだが――、一体どこにいるんだ?」

「答える必要性を感じません。――と、言うよりもすでに逆探知は済んでいるのでは?」

「――っ!? そ、それよりもだ! 京葉道路で、ずいぶんと大業な立ち回りをしてくれたようだな」

「それは、相手から攻撃を仕掛けてきましたので」

「…………それで、佐々木望は無事なのか?」

「はい。佐々木さんは無事です。それよりも、ロシアの工作員が攻撃を仕掛けてきたというのは、すでに分かっていますので、現在の状況を手短に話してください」

「……分かった。大方、予想はついていると思うが――、リン鉱石の件でロシア政府が交渉進展がなかったこともあり外交で不利な状況を一変しようとして、事前に潜り込ませていた軍隊を使って行動を起こしたようだ。こちらも、京葉道路で発生したカーチェイスと戦闘に関しての処理で手いっぱいだ。海ほたるの件もあるというのに……」

「それはご愁傷様です。スパイ法案を制定していなかった日本政府に落ち度がありますので、私達に怒られても困りますので――」

「ああ言えば、こう言うものだな。だから、江原に聞こうと思っていたんだが……」

「それは残念ですね」

「まったくだ。とにかく、いまは貝塚ダンジョンのリン鉱石の権利譲渡が可能だとレムリア帝国が各国に向けて情報を流したことで、世界各国が日本に対して圧力をかけてきている。そのために、自衛隊の保護下に入って欲しいのだが……」


 藤堂と楠の話を聞いていた佐々木が、藤堂に近寄ると携帯を取りあげる。


「楠さん。敵が、こちらを攻撃してくるのなら圧倒的戦力で敵を撃滅し屠りますので、こちらに各国の軍隊を素通りさせてください。力を見せつけた方が相手国も分かりやすいと思いますので」

「……外交面を考慮して、なるべく穏便に済ませてくれ」

「それは保証しかねます」

「――なら、なるべくで構わない」


 電話口から楠の溜息が聞こえてくる。

 そのあと佐々木は携帯電話を切ると江原に渡す。


「江原さん、守居(かみい)村へ向かうとしましょう。すぐに車を手配してもらえる?」

「はい!」



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