第59話 貝塚ダンジョン攻略(4)

 地下21階層に足を踏み入れた。

 そして、すでに恒例ともなっているスキル「神眼」を発動。

 視界内の中央に、半透明なプレートが拡大されると同時に、ログが流れる。




 ――ダンジョン内、地下21階層にてレベル21 名称 ピーナッツウォーリアー が、834匹確認できました。

 ――ダンジョン内、地下21階層にてレベル21 名称 ピーナッツコマンダー が、1匹確認できました。

 ――スキル「神眼」により、全てのダンジョンモンスターの配置をMAP上に表示します。



 

 ログが流れ終わると同時に視界内――、右上に表示されているMAP――、三次元ポリゴンの線で表現されているMAPにレアモンスターであるピーナッツコマンダーの存在移置が赤い斑点で――、一般モンスターが黄色い斑点で表示されていく。


「ふむ……」


 どうやら、ログを見る限り地下21階層からは毛色が違うようだな。

 今までは、モンスターの名前の後ろにRとついていたが、ここからは名前が違う。

 レアモンスターには変わりないだろうが、少し注意して進んだ方がいいかも知れないな。


 地下21階層のMAPを確認するか。


「ずいぶんと、地下21階層の広間は大きいな。地下1階層の10倍以上はあるんじゃないのか? それにモンスターも、広間に全て集められているな」


 通路に関しては、直線上になっているのが確認できた。

 作りは1階層から10階層までと同じ。

 

 ――ただ、広間の大きさが1階層の10倍以上あるということくらいだ。


 あと気がかりと言えば――。

 


 いままでのダンジョンモンスターは、取って付けたような名前だった。

 それが、明らかに名称が変わってきている。

 これが何を意味するのか――。


「細心の注意を払って攻略するとするか」


 通路にはモンスターが居ない事は確認出来ている。

 音を立てないように広間まで走る。

 そして広間の入り口に到着。


 そっと広間の中を見る。


 やはり、MAPに描かれていた通り、広大な広間が――、ホールが存在している。

 天井の高さも10メートル近くはあるように見える。

 さらに広間に床は、石畳ではなく土のようだ。


「さて――、あれが、ピーナッツウォーリアーか」


 ピーナッツの殻をそのまま巨大化させたような化け物が広間の中を闊歩している。

 背丈は2メートル近くあるだろう。

 手足は節がついており、ピーナッツの殻で手足が構成されている。

 殻の色は乳白色――。

 手には、細長いピーナッツを持っている。

 

 おそらくだが――、あの細いのが剣なのだろう。

 実際切れるかどうかは分からないが、試したくはないな。

 飛翔するピーナッツですら、壁に突き刺さっていたからな。


 当たったら痛そうだ。

時折、ピーナッツウォーリアーが、手に持っている細長いピーナッツを振りまわしている。

 それにしても……「もうピーナッツじゃなくてもいいだろうに……」と、俺はずっと思っていた事を思わず呟く。


 どれだけ、貝塚ダンジョンはピーナッツ押しているんだ?

 まるで千葉県の特産物はピーナッツしかないみたいじゃないか。

 

「…………いや、千葉の特産物はピーナッツくらいしか思いつかないな」


 他に千葉県に特産物があったか?

 思いつかないな。


「――となると、強ち間違ってもいないか……」


 ただ敢えて言わせてもらえば、貝塚ダンジョンは元々、海の貝を古代の人々が食べていた遺物が見つかった場所だ。

 出来れば海産物関係を前面に押し出すような配慮をしてほしかった。


 まぁ、ダンジョンに期待しても仕方ないが。

 さてと……、ピーナッツコマンダーはどいつだろうな……。


 視界内の右上に表示されているMAPへと視線を向ける。

 そのあと、MAP上に表示されている赤い斑点を目安に広間の中を見ていく。

 

「あれか――」


 周囲のピーナッツウォーリアーよりも一際大きい物体。

 3メートルものピーナッツが、広間の中央で座っている。

 距離としては100メートルほどだろう。

 それほど離れてはいない。


 ――ただ、問題がある。


 それは、今までは通路で基本戦ってきた。

 だが、今回はフロアのモンスター全てが広間に集まっているということだ。


 つまり相手は、物量で圧殺することも可能ということ。


「さて、どうしたものか……」


 初めてのまともなモンスターとの戦闘。

 しかもコマンダーというのは指揮官という意味を孕んでいたはず。

 

 そうなると下手をした場合、コマンダーの命令一つで、フロア中のモンスターが一斉に襲い掛かってくる可能性だってありうる。


「ここは、まずは遠距離攻撃で指揮官を潰すのがいいな」


 一度、広間から離れる。

 そして、距離を十分とったところで通路の壁を拳で破壊し、砕けて床に転がった石を10個ほど回収する。


 原始的な方法だが、身体能力が強化されている俺が投擲すれば、普通の石であっても十分に殺傷能力はあるはず。


 広間入り口に戻る。

そして、広間の中を見ると、いまだにピーナッツコマンダーが寛いでいるのが見える。


「――さて」


 持ってきた石を石畳の上に置いたあと、一つを右手に持ったまま全力で投げる。

 石は、凄まじい速さで飛び――、周囲に衝撃波を撒き散らしながらピーナッツコマンダーの体に衝突し――、石が砕けた。


「…………」


 どうやら思ったよりも、ピーナッツコマンダーの外殻は堅いようだな。

 それと同時に、もってきた他の石も全て無駄になったことの証明にもなった。


 しかし、それにしても……これは完全に想定外だ。

 それに相手もこちらを完全に認識したようで立ち上がると、手で指示を出している。


「仕方ない! 突っ込んで倒す――」


 数歩歩いたところで足を止める。

 広間中から、モンスターが集まってきたのが見えたからだ。

 すぐに通路へと戻る。

 そんな俺の後ろを30匹ほどのピーナッツウォーリアーが追いかけてくる。

 このまま逃げても、20階層に上がる階段があるだけ。


「戦うしかないか」


 足を止める。

 そして――、10秒ほどで追いついてきたピーナッツファイターが、その手に持つピーナッツを振り下ろしてくるのが見えた。


 俺へと振り下ろされるピーナッツを左手で払う。

 それだけで、茶色いピーナッツは粉々に砕ける。


「思っていたよりも脆いのか?」


 ――なら!


 左足を軸にして体を半回転させながら、ピーナッツウォーリアーの頭部と思われる場所へ右上段蹴りを叩き込む。

 

 ――爆散するピーナッツ。


 そして爆散したピーナッツは、ダンジョン内の石で作られた壁に突き刺さる。


「違う! 身体能力だけじゃなく肉体の強度も跳ね上がっているのか?」


 そういえば、飛翔する落花生を素手で弾いたこともあった。

 それら飛翔する落花生は、壁に突き刺さるほどの威力を持っていたというのに。


 つまり、今の俺の体は……。


 黙ったまま殴られる。

 まったくダメージを受けない。

 スキル「神眼」で自身のステータスを確認するが――。




 ステータス


 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

 年齢 41歳

 身長 162センチ

 体重 66キログラム


 レベル1(レベル1100)

 HP 10/10(11000/11000)

 HP 10/10(11000/11000)


 体力150+〔3300〕(+)

 敏捷150+〔3300〕(+)

 腕力150+〔3300〕(+)

 魔力100+〔2200〕(+)

 幸運100+〔2200〕(+)

 魅力100+〔2200〕(+)


  ▽所有ポイント 224 




 まったくダメージを受けていない。


「なるほど……、なるほど!」


 左足を大きく前方に踏み出す。

 そして、体中を捻転させながら、拳を前方に突き出す。

 

 ――所謂、正拳突き。


 ただし、以前に特殊戦闘スキル「須佐之男命(スサノオ)」が、体を使用した際に使った掌底の応用。

 完全には再現出来てはいないが、以前よりも遥かに身体能力が跳ね上がっている俺なら、ある程度は再現できるはず!



 俺の予想は間違ってはいなかったようで――。


 爆発的な衝撃が、通路内の空間を満たし――、追いかけてきていた30匹のピーナッツウォーリアーが粉々に砕け散り吹き飛ぶ。

 

 通路の石畳の上には、モンスターコアが散らばる。


「黄色のダンジョンコアか?」


 今までは黒のダンジョンコアしか落ちなかったが、黄色が落ちるということは、それだけ強いモンスターだということだろう。

 まぁ、俺には関係ないが。


 ――だが、これで分かった。

 

 今の俺なら地下21階層程度のモンスター相手なら遅れをとることはない。

 そもそも、よくよく考えれば、今の俺のレベルは1100。

 対して、モンスターのレベルは21。

 普通のゲームなら、オーバーキルが常時発生するレベル差だ。


 これならガンガン行っても問題ない。


 スマートフォンで時間を確認する。

 すでにダンジョンに潜ってから2時間が経過。

 時刻はすでに22時。

 さすがに日付が変更するまでシャワーを浴びているのは、今度は逆に不自然だろう。

 

 ならば全力で、ポーションが手に入るまで攻略するのみ。


 広間まで走り戻ると、すでにピーナッツウォーリアー達は、コマンダーの命令か指示で動いたのか陣形を形成している。


「魚鱗の陣形か」


 好都合だな。

 俺は全力で――、ダンジョンの床を踏みしめて走り集まっていたモンスターの群に突っ込む。

 予想通り、今までと変わらず触れた瞬間に、全てのピーナッツウォーリアーが爆散し、モンスターコアを周囲にばら撒いていく。


 途中で、逃げ出そうとしたピーナッツコマンダーを拳で殴りつけ倒す。

 すると鉄製の箱が、地面の上に落ちる。

 鉄箱の大きさは、縦横奥行き70センチほど。


 拾い上げ箱を素手でこじ開ける。


 中から出てきたのは、オシャレからは程遠い

 主婦が買い物に持っていくエコバッグのようなもの。

 一応、生地は布のようだが……。

 広げると、生地の色はピンク。

 さらに、生地には刺繍がされている。


「ピーナッツウォーリアーをデフォルメしたのか?」


 本当に、どれだけピーナッツ押しなんだ。

 まぁ、別にいいか。

 何か、特別な効果があれば――。



  

 【アイテム名】  

 

 四次元手提げ袋




 【効果】   


 アイテムを10キロまで収納することが出来る。




 アイテムボックスみたいなものか?

 だが……、これは……。

 柄といい色といい、こんなの誰が欲しがるんだ?


 

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