第36話 アイテムボックス

 とりあえず、牛丼半額の魔法は藤堂と一緒に食事に行くときに使ってみるとして……だ……。


 ――魔法は、個人の資質が大きな影響を与えるということは何となくだが理解できた。



「つまり――」


 とんでもなく駄目な魔法すら存在する可能性があるということが何となくだが察せられてしまう。

 次の魔法が覚えられるのは、レベル600らしいことから試してみる価値はあるだろう。

 

 本当に使えない魔法が来たらどうするのか? それは、考えておかなければいけない課題でもある。


「さて……」


 引き出しの中の――、1センチほどの置物を指先で潰していく。

 すると視界内に半透明なプレートが開く。



 

 ――レベル558 エンディアスガーディアンを討伐しました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。




 ログが流れ続ける。

 そして……、――引き出し中のミニチュアダンジョンの置物を倒すこと――、数分で……。




 ――LV600に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから一つを選択してください。

 ――魔法を一つ選んでください




 →1、New! アイテムボックス

  2、履歴書が綺麗に書ける

  3、印鑑を綺麗に押せる

  4、牛丼が60%引きになる

  5、牛丼に毎回、トン汁がつく



 

「ふむ……」


 これは……。

 思わず、顎に手を当ててしまう。

 先ほどとは明らかに違った文言が書かれている。


「牛丼が60%引きか……」


 現在のレベルは600。

 つまり1000レベルまで上げれば……。


「100%引きもありえるのか?」


 だが! たった10%とトン汁――、どっちを選ぶのか? と問われれば答えはとても難しい。

 LV700でトン汁の魔法が残っているとは言えないからだ。


「クソッ!」


 俺は思わず、デスクを軽く叩く。

 なんて難しい判断を俺に課すのか! だが! 普通の味噌汁とトン汁では月とスッポン。

 

 分かりやすく言うなら、千葉ポートタワーとスカイツリーくらい違う。

 つまり、まったく違うのだ。

 そして牛丼の価格は並みで380円……。

 10%引きとしたら38円だ――、対してトン汁変更では180円と大きい。


 ――俺は、どうすればいいんだ……。


 味・量・さらに食事のバランスから考えたらトン汁は取っておくべき魔法だろう。

 だが、牛丼60%引きを取らなかったら――、決定的な何かに敗北する予感がある。


「仕方ない……」


 下せる決断は一つだけ。

 俺は、迷いながらも「4、牛丼が60%引きになる」を選択し選ぶ。

 

「ふう……」


 思わず溜息をつく。

 魔法は個人の資質だとログでは流れていた。

 それを見ながら何となく察してしまう。


 普通の人間なら間違いなく見落とす部分。


 ――だが! 俺にだけは――、コールセンター歴20年以上の社会人としてはベテランの領域に達している俺にだけは分かること。


 間違いなく、半透明のプレートに流れているログは、俺を試してきている。

 まるで俺が牛丼とトン汁――、どちらを選ぶのかを遥か頭上の彼方から試してきているように――。


 悪質なこと、この上ないな。

 俺じゃなかったら、トン汁を選んでいるところだった。


 さて――、レベル上げを続けよう。




 ――10分後。




 ――LV700に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから一つを選択してください。

 ――魔法を一つ選んでください




 →1、New! アイテムボックス(最大魔力量により預けられる物の量が増えます! 最大MP1につき1kg)

  2、履歴書が綺麗に書ける

  3、印鑑を綺麗に押せる

  4、牛丼が70%引きになる

  5、牛丼に毎回、トン汁がつく 





「置物が減ってきたからレベルの上がりが遅くなってきたな……」


 それにしても、やはり牛丼7割引きが存在している。

 俺の予測は当たっていたとみていい。

 もちろん、「牛丼70%引きになる」を選んだあとレベル上げを開始する。




 ――15分後。




 ――LV800に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから一つを選択してください。

 ――魔法を一つ選んでください




 →1、【今一番のトレンド!】

    New! アイテムボックス(最大魔力量により預けられる物の量が増えます! 最大MP1につき1kg)

  2、履歴書が綺麗に書ける

  3、印鑑を綺麗に押せる

  4、牛丼が80%引きになる

  5、牛丼に毎回、トン汁がつく

 

 


「牛丼80%引きになる」を選ぶ、

 

 ――もちろんレベル上げをする。




 ――20分後。




 ――LV900に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから一つを選択してください。

 ――魔法を一つ選んでください




 →1、オススメ! 【今一番のトレンド!】

    New! アイテムボックス(最大魔力量により預けられる物の量が増えます! 最大MP1につき1kg)

  2、履歴書が綺麗に書ける

  3、印鑑を綺麗に押せる

  4、牛丼が90%引きになる

  5、牛丼に毎回、トン汁がつく




 90%割引牛丼を選択――。

 さらにレベルを上げ……。




 ――30分後。




 ――LV1000に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから一つを選択してください。

 ――魔法を一つ選んでください




 →1、すっごいオススメな魔法! 【今一番のトレンド!】

    New! アイテムボックス(最大魔力量により預けられる物の量が増えます! 最大MP1につき1kg)

  2、履歴書が綺麗に書ける

  3、印鑑を綺麗に押せる

  4、無限の牛丼

  5、牛丼に毎回、トン汁がつく




「無限の牛丼?」


 どんな魔法だ? 100%割引じゃないことは確かなようだが……。

 ――今一、分からないがとりあえず「無限の牛丼」は取っておくとするか。

 あとで実証テストするのもいいかも知れないからな。

 さて――、あとはトン汁を取れば……。




 ――40分後。




 ――LV1100に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから一つを選択してください。

 ――魔法を一つ選んでください




 →1、牛丼が温かい状態のまま無限に入れられるアイテムボックス! 

  2、履歴書が綺麗に書ける

  3、印鑑を綺麗に押せる

  4、共通言語

  5、牛丼に毎回、トン汁がつく




「なん……だと……」


 アイテムボックスというのは、牛丼を温かいまま入れることができるのか……。

 コレは取っておかないといけない。

 トン汁はレベル1200になってからでも遅くはないだろう。

 アイテムボックスを選択し選んだあと魔法欄を開いて確認する。




 魔法



 

 牛丼半額 MP消費1

 牛丼6割引き MP消費2

 牛丼7割引き MP消費4

 牛丼8割引き MP消費8

 牛丼9割引き MP消費16

 ▽無限の牛丼 MP消費1000

 ▽アイテムボックス MP消費なし



 

 ▽所有ポイント 1032




「アイテムボックスか……。牛丼買い貯めができれば震災の時でも牛丼が食べられていいかもしれないな」


 問題は、アイテムボックスを使っているところを見られたら奇異な目で見られることくらいか。

 とりあえずアイテムボックスはどういう風に使えるのか試してみるとするか。


「まずは、アイテムボックスの使い方か――」


 チェックボタンを選ぶと同時に半透明なプレートに項目が表示される。



 

 ▼アイテムボックス MP消費なし


 ・最大MP容量 x 1キログラムの容量を固有空間内に納めることができる。

 ・時間経過による劣化は存在しない。

 

 使用方法


 固有空間内に内包したいアイテムを頭の中で思い描くだけで発動。




「どこかで読んだことがあるような仕様だな……」


 何故か知らないが、半透明なプレートに表示されている文言を――、……どこかで見たことがあるような気がする。

 …………ただ、それが何だったのかまでは思い出せない。


「……ということは、現在の俺のMPは11000あるから11トンまでは内包できるということか……」


 ふむ……。

後は、アイテムボックスがどういう物なのか調べてみる必要があるか。


 アイテムボックスの実験に使えるものを見つけるために部屋の中を見渡す。

 丁度、机の上には履歴書が置かれている。

 履歴書をアイテムボックスの中に入れるように考えると――、突然! 視界内に黒いプレートが表示された。


 黒いプレートの上にはアイテムボックスと書かれている。

 さらに視界内には矢印が見える。

 その矢印は、俺の考える通りに動く。


 履歴書を矢印で選択し、マウスで動かすようにカーソルをアイテムボックスの空欄へと移動する。

 そうするとアイテムボックスに縮小映像化された履歴書が表示された。




 アイテムボックス


 ・完成原稿の履歴書 X 1





「なるほど……」


 出そうとした時は、カーソルでクリックしたまま自分が出したい所――、視界内に見えている場所へ移動するだけで履歴書が瞬時に出現する。

 

「視界内範囲というのは便利だな」


 いまのところ、室内だけなら――、どこへでも好きな場所へ履歴書を出現させることができるからだ。

 これは間違いなく牛丼割引とタメを張る価値があると見ていい。


「――そういえば……、時間経過による劣化は存在しないんだよな……、ふむ…………。 ――たしか、このへんに……」


 デスクの中――、奥の方から震災時に火元があれば便利かなと思い購入した100円ライターを取り出す。

 100円ライターの火をつける。

 

 ――そして、ライターの炎をアイテムボックスに移動できるか試す。


 移動した瞬間、ライターの火は消える。

 そして……。




 アイテムボックス


 ・完成原稿の履歴書 X 1

 ・炎(極小)    X 1




 炎を指先に灯るように移動する。

 すると指先に4センチほどの炎が出現し1秒ほどで消えて無くなった。


「普段からアイテムボックスに入れておけば、火が必要の時に利用できそうだな。アイテムボックスについては、臨機応変に使い分けられそうだな。あとは……」


 無限の牛丼か……。

 



 ▼無限(アンリミテッド)の牛丼(ギュウドン) MP消費1000


 全ての牛丼の探求者。牛丼に夢を馳せる者。牛丼に人生を掛けた屍の上に築かれた理想――、そして夢の味の体現の牛丼を、無限に生み出すことができる空間を作りだすことができる。

 ただし! その牛丼にはカロリーは存在しておらず、食べれば食べるほど! 消化のために! カロリーが消費される。

 ダイエット牛丼である。


 ※召喚した物は期限切れにならない限り食べられる。劣化は普通の生鮮食品と変わらない。他人に食べさせることもできる。

 



「なん……だと……」


 牛丼にカロリーが無いとか……、世界への冒涜じゃないのか?

 牛丼というのはカロリーが存在していて、ギリギリを見続けて食べることこそ至高だというのに……。

 俺は……、牛丼玄人(ギュウラー)として何て物を……。

 それに――、他人にカロリーが無い食べ物を食べさせるなんて駄目だな。

 腹の足しにならない物を提供するなんてどうなのか? と疑問を禁じ得ない。


 ……と、とりあえず、牛丼神の背信になりかねない無限の牛丼は封印だな。

 食べたらカロリーが減る牛丼とかあったら駄目だろ。


「はぁ……、とりあえず使えるのは牛丼割引くらいか」


 まずは牛丼半額の魔法を発動させる。

 すると頭上から一枚紙が落ちてきた。

 それはデスクの上に落ちる。


「……株主優待券? 牛野屋牛丼半額割引?」


 ――ま、まさか!?

 逸る鼓動を抑えきれずに6割引きの魔法を発動。

 すると6割引きの――、株主優待券が頭上から1枚落ちてきた。


 7割も――、8割も――、9割も――、全部株主優待券!


「なるほど……、そう来るとは完全に予想外……」


 まあ、とりあえず一応割引券はもらえるわけだからな。

 食べに行く前に毎回、優待券を出しておけば……、いいわけ……で!?




 魔法


 牛丼半額 MP消費1

 牛丼6割引き MP消費2   制限解除まで180日

 牛丼7割引き MP消費4   制限解除まで180日

 牛丼8割引き MP消費8   制限解除まで180日

 牛丼9割引き MP消費16   制限解除まで180日

 ▽無限の牛丼 MP消費1000

 ▽アイテムボックス MP消費なし




「――え? 制限解除が魔法にあるのか? それに制限解除時間が長すぎる!」


 ――っていうか魔法に制限解除あるとか取る前に言ってほしかった。

 

 これなら別の魔法を取ったのに……。

 誰だよ……、牛丼を選ばなかったら決定的な何かに敗北するような気がするって言ったのは……。



 

 ――コンコン


「山岸さん、いらっしゃいますか? 藤堂ですけど?」


 どうやら、魔法とレベル上げに集中しすぎていて時間がいつの間にかお昼を過ぎてしまっていたようだ。

 時計の針は12時30分を過ぎている。

 社会人として時間にルーズなのはもっともやったらいけないことだ。


「はい、少しお待ちください」


 すぐに支度をするとしよう。


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