第24話 ダンジョンツアー(4)

 手洗いに行ったあと受付の前に向かうとダンジョンツアーに参加するであろう人だかりが見える。

 中学生くらいの年齢の若者が5人。

 高校生が3人。

 あとは中年夫婦が3組。

 それと主婦が4人。


 念のためにダンジョンツアーに参加する何人かのステータスを「解析LV10」で確認する。




 ステータス


 名前 鈴木(すずき) 洋子(ようこ)

 年齢 37歳

 職業 専業主婦

 身長 165センチ

 体重 66キログラム


 レベル1

 HP 10/10

 MP 10/10


 体力12(+)

 敏捷10(+)

 腕力11(+)

 魔力 0(+)

 幸運 1(+)

 魅力 9(+)




 ステータス


 名前 山田(やまだ) 由紀夫(ゆきお)

 年齢 17歳

 職業 高校生

 身長 170センチ

 体重 60キログラム


 レベル1

 HP 10/10

 MP 10/10


 体力22(+)

 敏捷19(+)

 腕力23(+)

 魔力 0(+)

 幸運 4(+)

 魅力12(+)




 ステータス


 名前 田村(たむら) 昇(のぼる)

 職業 公務員 ※課長

 年齢 65歳

 身長 177センチ

 体重 65キログラム


 レベル1

 HP 10/10

 MP 10/10


 体力10(+)

 敏捷10(+)

 腕力14(+)

 魔力 0(+)

 幸運 9(+)

 魅力27(+)




 他のツアー参加者も見ていくが、レベルは全員1。

 HPもMPも10。

 ステータスは、体力・敏捷・腕力は10から25の間。

 魔力は全員が0で、幸運は一桁。

 そして魅力は若者の方が高い。

 年配でも高い場合は、公務員や役職がついている物に限られている。

 もしかしたら、安定した職についているかどうかも魅力には関係があるのかも知れないな。


 だが、おかげで何となくだが分かってきた。

 

 一般人のレベルは基本的にLV1でHPとMPは10固定。

 レベルが1上がるごとに10ずつHPとMPが増えていく。

 ステータスの平均は一般的には20付近が平均なのだろう。

 つまり……。


 ステータス


 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

 年齢 41歳

 身長 162センチ

 体重 71キログラム


 レベル1(レベル449)

 HP 10/10(4490/4490)

 MP 10/10(4490/4490)


 体力17(+)

 敏捷15(+)

 腕力16(+)

 魔力 0(+)

 幸運 0(+)

 魅力 2(+)


 ▽所有ポイント 390



 俺のステータスは、かなり最弱なのではないだろうか?



「山岸せんぱいっ!」


 俺は溜息をつきながら後ろを振り返る。


「佐々木か、お前は引率が仕事なんだろう? 一人だけを贔屓にするのは社会人としては失格だぞ」

「――うっ!?」

「ほら、分かったのなら……、さっさと集合している連中のもとにむかえ」

「…………はい」


 まったく、せっかく就職ができたというのに――、元・先輩である俺を気遣うのは構わないが公私混同は控えてほしいものだな。


「どうかしたんですか? 難しそうな表情を顔をして――」

「山根さん……」


 話しかけてきたのは山根であった。

 彼は、自衛隊の斑模様の服を身に纏っており拳銃も所持している。

 さらに短刀やコンバットナイフ、それとアサルトライフルを背負っていた。


「佐々木のことで、少し――」

「佐々木君が、何かしましたか?」

「何かしたほどではないのですが、まだ若いからなのでしょうか? 公私混同をしているきらいが見受けられるので……」

「…………ああ、なるほど……、さすがは山岸さんですね。そのへんはきちんとしているということですか」


 何やら、山根が頷いて納得しているようだが――。


「まぁ、今後も佐々木が迷惑を掛けることになると思いますがよろしくお願いします」


 一時的とは言え、俺も佐々木の上司だったことがある。

 きちんとフォローをしておくべきだろう。


「ええ、分かっています。きちんとお預かりしておきますので」


 何だか知らないが、山根もずいぶんと大げさに答えてくるものだな。

 俺と佐々木は、以前の職場の上司と部下くらいの繋がりしかない。

 まぁ、それでも適当に返されるよりはいいか。


「山根さん、そういえばダンジョン探索者協会の女性の服装ですが――」

「ああ、それですか。幕僚長が結構年を召している方ですので、硬派をイメージして男性はガクラン、女性はセーラー服と協会所属探索者には渡しているのです。言わば、日本ダンジョン探索者協会の制服のようなものですね」

「そうですか……」

「ご心配ですか?」

「心配というよりも、あんな薄い服でダンジョンに潜っているのか疑問に思ったのですが……」


 ダンジョンツアーの警備をするのだから物々しい服装をしていると思ったが……、佐々木の着ているのは白と紺色のセーラー服。

 あとは、サバイバルナイフを腰にさげているだけで戦闘用には見えない。


「なるほど……。ですが、ご安心ください。日本ダンジョン探索者協会で採用しております制服には、カーボンナノチューブとケブラー繊維が使われていますので防弾・防刃に優れているのです」


 カーボンナノチューブって、グラム数万とか聞いたことあるな。

 そんな物で服を作るって……、日本ダンジョン探索者協会は思ったよりも大きい組織なのか?

 疑問に思いつつも「それでは、貝塚ダンジョンに入りますので遅れないでくださいね!」と言う声に従い、俺は列に並ぶ。

 そして、俺の後ろには山根が立つ。


「山根さんが殿を務めるのですか?」

「ええ。前の方には楠がいますので――」


 たしかに……、「解析LV10」で見る限り楠の姿が見える。




 ステータス


 名前 楠(くすのき) 大和(やまと)

 職業 公務員 ※日本ダンジョン探索者協会所属強行班第7部隊団長

 年齢 37歳

 身長 169センチ

 体重 58キログラム

 

 レベル255


 HP2550/HP2550

 MP2550/MP2550


 体力45(+)

 敏捷50(+)

 腕力47(+)

 魔力 0(+)

 幸運 8(+)

 魅力17(+) 


 所有ポイント254




 相変わらずのステータスの高さだ。

 俺はついでに山根のステータスもチェックしておく。




 ステータス


 名前 山根(やまね) 昇(のぼる)

 職業 軍人 ※陸上自衛隊2等陸尉、内閣情報調査室所属、日本ダンジョン探索者協会所属特殊戦隊班

 年齢 48歳

 身長 177センチ

 体重 65キログラム

 

 レベル288


 HP2880/HP2880

 MP2880/MP2880


 体力47(+)

 敏捷41(+)

 腕力53(+)

 魔力 0(+)

 幸運 6(+)

 魅力 7(+) 


 所有ポイント287



 

 本当に二人のステータスは一般人から見たら突き抜けている。

 そういえば……、佐々木もLV20近いと山根に言われていたな。

 どれどれ――。


 


 ステータス 


 名前 佐々木ささき 望(のぞみ)

 職業 公務員 ※日本ダンジョン探索協会所属通信技師

 年齢 21歳

 身長 151センチ

 体重 46キログラム

 

 レベル19


 HP190/HP190

 MP190/MP190


 体力12(+)

 敏捷23(+)

 腕力10(+)

 魔力 0(+)

 幸運 4(+)

 魅力28(+) 


 所有ポイント18




 LVは19か――。

 他のステータスに変わりはないな。

 俺と違ってステータスが急激に変わるということはないのか……。

 

 それよりも、山根の職業が長いな……。

 俺は、前の列についていく。


 巨大なプレハブの中には、地下鉄に降りていく階段のような物が存在している。

 人が二人並んで降りられるほどの横幅。


 前は少しずつ進んでいき俺も階段を降りていく。

 階段の幅も段差も殆ど一般的な地下鉄と感覚的には同じ。

 

 ――ただ、壁の所々にはLEDが置かれており、暗くはない。


 最後まで降りたところで足が石畳につく。


「それでは、皆さん! ステータスオープンと言ってください」


 先頭を歩いている楠の言葉に次々とステータスオープンを言葉を発する人々。

 俺は、それを見て少し恥ずかしい思いをしながらも口にする。

 すると視界内には、




 LV1

 HP10/HP10

 MP10/MP10




 ――と、だけ表示される。

 名前もステータスも何も表示されない。


「山岸さんは、LV1ですか……。ダンジョンに潜ったことがないんですね」

「ええ、まあ……」


 俺は曖昧に答える。

 どうやら洞窟内では、HPとMPとレベルが他人に見えるようだ。

 隠蔽LV10を取っておいてよかった。


 山根と話ながら周囲を見渡す。

 地下鉄入り口を思わせる階段を降りた場所は、広いドーム状の空間になっている。

 高さ4メートル、半径は10メートルほどだろうか?


「ずいぶんと広い空間なんですね」


 日本ダンジョン探索者協会のホームページで、ダンジョンの概要欄を見たときに多少手が加えられていると聞いたことがあったが、想像以上に手が加えられている。


「はい。ダンジョンの壁は基本は石で作られています。ですが、それだと見栄えが悪いためコンクリートで固めたあと化粧ブロックで綺麗に見せています」

「そうですか……」

 

 俺としては、見栄えを良くするならダンジョンならダンジョンらしく石組みの壁のまま見せた方がいいと思う。

 壁に水槽を埋めて水族館のように見せる理由が今一つ、理解できない。

 

「水槽が気になりますか?」

「そうですね。見栄えを良くするなら水族館のようにする意味が分からないですね」

「なるほど……、ですが、これも市民の方にご理解を頂けるようにとの方針の一環なのです」

「――と、言いますと?」

「山岸さんは、東京タワー水族館というのは知っていらっしゃいますか?」

「たしか、東京スカイツリーの前に利用されていた建物ですよね?」

「はい。そこでは水族館が併設されていたのですが、2018年いっぱいで水族館が閉鎖されました。その際に、大量の魚や爬虫類などが処分されるはずだったのです」

「なるほど……、それは仕方ないですね」

「――はい。ですが、そこに目をつけたのが日本ダンジョン探索者協会です。やはり多くの命を奪うというのは、国民の感情としては宜しくはなかったのです。日本ダンジョン探索者協会は、ダンジョンが日本各地にできてから3ヶ月ほどで作られた協会でして……、東京タワー水族館が閉鎖された時期は、発足されてから1ヶ月目だったのです。そこで日本ダンジョン探索者協会は、国民の関心を引こうとし水族館の魚や爬虫類などを全て引き取ったのです。そして――」

「なるほど……、その生き物が生きていくうえでの新天地がダンジョンから降りた場所にあるホールだったというわけですか……」

「はい。地下で重機を組み立てて水道管などを敷いたのでかなりの費用が掛かりました。陸上自衛隊の工兵科の方は大変だったと聞いています」


 俺は山根の言葉に頷く。

 壁に360度、埋められている水槽。

 これだけの大仕事をしたのなら当然だ。

 水槽の大きさは一つだけでも高さは2メートル以上はある。

 維持費だけで相当なお金が掛かってそうだな。


「ダンジョンツアー参加者の方は、忘れずにツアー参加者セットを持っていってくださいねー」


 山根と話をしていると、澄んだ声がホール内に響き渡る。


「山岸さんも、ツアー参加者セットを貰ってきたほうがいいですよ?」

「ツアー参加者セット?」

「もらえばわかります」


 仕方なく、ツアー参加者セットを配っている女性の方へ向かう。

 女性は佐々木と同じような白と紺を基調としたセーラー服を着ている。

 そして、気になったのは膝上20センチほどのスカートを着用していることだ。

 山根は、日本ダンジョン探索者協会で配布している制服は防弾・防刃に優れていると言っていたが、膝から下が守れていないのだが、いいのだろうか? と俺は疑問に思う。


 俺は、他のツアー参加者の後ろに並びながらツアー参加者セットを配っている二人の女性を「解析LV10」でチェックする。

 別にやましい気持ちはない。



 

 ステータス 


 名前 漆原(うるしはら) 稀星(きらら)

 職業 公務員 ※日本ダンジョン探索協会所属キャンペーンガール

 年齢 23歳

 身長 152センチ

 体重 43キログラム

 

 レベル90


 HP900/HP900

 MP900/MP900


 体力14(+)

 敏捷22(+)

 腕力12(+)

 魔力 0(+)

 幸運 3(+)

 魅力33(+) 


 所有ポイント89

 



 ステータス 


 名前 江原(えはら) 萌絵(もえ)

 職業 公務員 ※日本ダンジョン探索協会所属キャンペーンガール

 年齢 20歳

 身長 148センチ

 体重 49キログラム

 

 レベル91


 HP910/HP910

 MP910/MP910


 体力10(+)

 敏捷19(+)

 腕力12(+)

 魔力 0(+)

 幸運10(+)

 魅力37(+) 


 所有ポイント90




 二人とも、レベルが高い。

 それと佐々木とは所属している部署が違うようだ。

 実際、キャンペーンガールと職業には書いてある。

 そして、キャンペーンガールだけあって、容姿はアイドルなみに可愛い。

 一昔前に流行り握手券で荒稼ぎをしていたTBS48とタメをはるレベルだ。


「貴方で、最後ですね! こちらをどうぞ!」


 手渡されたのは、山岳部が背負うような大きなリュックサック。

 リュックサックにはスコップや鍬などが括り付けられている。

 ちなみにリュックサックの中には何も入っておらず隙間だらけだ。


「もうご存知かと思います! リュックサックの中にはモンスターから――じゃなくて、落花生から出たコアを入れてください! あとで精算しますのでお忘れずに!」


 なるほど……。

 そういえば、モンスターからは日本ダンジョン探索者協会が買い取ってくれるというコアが出るんだったな。

 ここだと、落花生から出るのか……。


 …………ちょっと待てよ? 落花生ってそんなに大きくないよな?

 モンスターコアが入る余地なんかあったか?



 

 

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