第12話 自宅の前に美少女が。

 モノレール千城台駅から、ラパーク千城台まで続く空中連絡通路を歩き、宝くじ売り場へと向かう階段を降りる。

 もちろん歩きながら、自分のステータスをオープンにすることも忘れない。




 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

 年齢 41歳

 身長 162センチ

 体重 102キログラム


 レベル1(レベル64)

 HP 10/10(640/640)

 MP 10/10(640/640)


 体力17(+)

 敏捷11(+)

 腕力16(+)

 魔力 0(+)

 幸運 0(+)

 魅力 0(+)


 ▽所有ポイント 54


 


「あら、いらっしゃい」


 宝くじ売り場の売り場窓口に到着すると人の好さそうな60歳近いご婦人が語り掛けてきた。


「すみません、スクラッチクジはありますか?」

「ええ。ありますよ、何枚購入しますか?」


 俺は窓に貼られているスクラッチクジの価格をチェックする。

 価格は200円。


 200円のスクラッチクジは


 1等 3000000円 18本

 2等 100000円 360本

 3等 50000円 1080本

 4等 10000円 8100本

 5等 1000円 90000本

 6等 200円 450000本


 と書かれている。


「ふむ……、それでは1枚頂けますか?」


 まずは試しだ。

 ステータスを上げない状態で、一枚だけ購入し実験を行うことにする。

 何も疾しいことはない。


 これは、きちんと検証する必要があるからするだけだ。

 

「はいよ、200円ね」


 俺は、ご婦人に100円玉硬貨を2枚渡す。

 そして、ご婦人からスクラッチを受け取り、財布の中から10円硬貨を取り出し、その場で縦3マスX横3マスの計9マスの内3つを削る。

 当然、ビンゴなどせずに外れる。


「当然の結果だな……」


 20年ほど前に、3億円の年末ジャンボを当てるために3万円注ぎ込んで外れた悪夢が脳裏を掠める。

 だが、それはもう過ぎたこと。


 ――ここからが本番だ!




 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

 年齢 41歳

 身長 162センチ

 体重 102キログラム


 レベル1(レベル64)

 HP 10/10(640/640)

 MP 10/10(640/640)


 体力17(+)

 敏捷11(+)

 腕力16(+)

 魔力 0(+)

 幸運 0(+)

 魅力 0(+)


 ▽所有ポイント 54


 


 ……まずは所有ポイントを全て幸運に振り切る。




 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

 年齢 41歳

 身長 162センチ

 体重 102キログラム


 レベル1(レベル64)

 HP 10/10(640/640)

 MP 10/10(640/640)


 体力17(+)

 敏捷11(+)

 腕力16(+)

 魔力 0(+)

 幸運54(+)

 魅力 0(+)


 ▽所有ポイント 0




「――さて、いくか……、すみません、スクラッチを200円1枚ください」

「あいよ」


 一枚ずつしか購入しない俺にも愛想よくスクラッチを差し出してくる。

 俺は200円を払って受け取り、その場でスクラッチを削る。


 数字はビンゴ!

 宝くじ売り場の窓ガラスに張られている価格は10万円を指示していた。


 すばらしい。

 幸運ステータス……、すごいな。

 

 ……だが! まだまだ検証が足りない。

 あと1回……、――いや、あと10回か100回くらいは検証が必要だろう。

 

「すいません、200円くじを100枚ください」


 俺は1万円札を2枚渡し、驚いたご婦人が100枚スクラッチを束で渡してくれた。


 さあ! 稼ぐ時間だ! ――じゃなくて、検証の時間だ!




「えっと……、これね……」


 スクラッチ100枚を寒空の下で10円玉で削ること1時間近く。

 俺は、その場で換金するためにご婦人にスクラッチ101枚を渡していた。


 内訳は、


 100000円 1本 

 50000円 5本 

 10000円 17本 

 1000円  78本


「合計59万8000円になるわね」


 ご婦人が信じられないといった表情で俺を見てくる。

 まるで俺が不正をしたと言わんばかりの表情だ。

 まったく酷いものだ。

 俺は何も詐欺のようなことはしていないのに。


「それではお願いします」



 それにしても、幸運ステータスはすごいものだ。


 もう、幸運ステータスだけでいいんじゃないのか?



「10万円と5万円は、そこの駅前の銀行で換金してね」

「ここで貰えるのでは?」

「ここは1万円まで換金の宝くじ売り場なのよ?」

「そうなのですか……」


 そんなローカルルールがあるとは知らなかったな。

 宝くじなんてめったにやらないからな。


「はい、それじゃこれね」


 24万8000円を、ご婦人から受け取る。

 すでに、この金額だけで俺が派遣会社を通して毎月、稼いでいた金額と同じくらいだ。


 すぐに銀行に向かう。

 やはり、そこでも銀行員にジロジロと見られたが無事に35万円の現金を受け取ることができた。


 銀行から離れいつも通りバスに乗ろうとロータリーに向かう。


「そうだった……」


 今の俺は59万8000円も手に入れたばかり。

 たまには贅沢をしてもいいだろう。


 タクシー乗り場へと向かう。

 タクシーを利用するなんて何年ぶりだろうか?

 もう忘れてしまったくらい過去の出来事だ。


「目的地はどちらまで?」


 タクシーに乗り込むとテンプレのように聞いてくるタクシー運転手。


「近くの牛野屋までお願いします」

「え!?」

「牛野屋までお願いします」

「――わ、わかりました」


 いまの俺は財布の中に60万円近くの現金が入っている。

 そうなると夕方の食事は少しばかりリッチな物でもいいな。


 俗に言う自分へのご褒美というやつだ。


「着きました」


 自分の世界に浸っていると、いつの間にか到着していた。

 

「すいません。少し待っていてもらえますか?」

「……わかりました」


 駅から外れるとタクシーを拾いにくい。

 よって待ってもらうという手段を取る。

 ちなみに待っている間にもお金は発生するので普段はそんなことはしない……、というか俺はできない。

 お金がもったいないからだ。


 すぐに牛野屋に入り、牛丼特盛りの生玉子セットを頼み購入しタクシーのもとへと戻る。


「待たせました」

「それではどちらまで?」


 今度こそ家に帰るまでの道を伝えた。

 それから10分もかからず自宅の――、築30年のアパートの前に到着。

 清算の段階で「釣りはいらねえ」と、1万円を渡してタクシーから降りる。


 実は以前からやってみたかったことの一つだ。


 


 俺は、ボロボロのアパート――、もちろんセキュリティもないし管理人もいないし自動扉もないアパートの階段を上がっていく。

 カンカンという音が周辺に響き渡る。


「今日の夕飯は奮発だな。何せ、牛野屋の特盛りだからな」


 普段は節約のために自炊がメインだが、臨時収入が入った今日くらいは贅沢をしても許されるだろう。


 俺は階段を上がりきり通路を歩きだしたところで首を傾げる。

 前方に誰かいる。

 しかも、俺の部屋の前にパーカーを着た人影が見える。


「体のラインからして女だな……」


 だが、俺には付き合っている女性はいない。


「セールスには見えないな……」


 とりあえず無視して部屋に入ることにしよう。

 関わるとロクなことは無さそうだしな。



 通路を歩き、自分の部屋の鍵を開ける。

 そして部屋に入ろうとしたところで後ろから、パーカーを着た女性が抱きついてきた。

 体の柔らかさから見て女であることは間違いなさそうだが……。


「ここの借主は俺だが、誰かと勘違いしていませんか?」


 とりあえず言葉で説得して穏便に帰ってもらうとしよう。

 そうしないと牛丼が冷めてしまうからな。


「先輩! 俺です! 佐々木です!」

「はあ?」


 いきなりのことに俺は素っ頓狂な声をあげていた。

 自分自身を佐々木と言った女はパーカーの被りものをとって俺を見てくる。


 栗色の髪の毛が背中までフワッと広がり、色白な肌に大きな黒い瞳。

 とてつもない美少女が俺に抱き着いてきていて上目遣いで俺をみてきている。



 どう考えても男の佐々木だった頃の面影がまったくない。

 新手の詐欺か? 男が女になるなどファンタジーもいいところだ。

 悪い冗談にも程がある。



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