第8話 ステータス表示。

「とにかく落ち着こう」


 急いでも良いことは何もない。

 まずは戸を閉めてからお湯を沸かしホットココアを作り、椅子に座ってからココアを飲んで一息つく。

 

「――さて……」


 まずは仕事机がどこまでおかしなことになっているのか確認する必要がある。

 それは仕事机の引き出しの中に存在しているミニチュアが本当にダンジョンかどうかを検証すること。

 それと3段の引き出しの――、真ん中と下の段がどうなっているかだ。


「おかしいのは上の段だけか……」


 俺は、あまりのことに肘を仕事机の上に置くと額に手を置く。

 まったく冗談じゃない。

 いま、何時だと思っているんだ。

 

「この寒空の中、履歴書を買いにいかないといけないとは……。あとは証明写真も一緒に消えたから、証明写真も撮りにいかないとな……」


 俺は着替えてコートを着たあと近くのコンビニまで買い物にいく。

 履歴書を購入し、近くのスーパーに併設されている24時間証明写真が作れる機械で写真を撮ったあと家に戻る。

 履歴書を書き終え証明写真を貼り終えたのは、1時間後。

 すでに時刻は午後11時を過ぎている。

 あと1時間もせずに明日だ。

 

「とりあえず派遣会社の登録会の場所でも確認しておくか」


 メールを確認していく。

 すると未開封メールが5つ届いていたが、その件名がおかしい。

 件名には、【登録会につきまして】と書かれている。


 内容は、「お送りいたしました登録会ご案内のメールでございますが、希望されていたコールセンター業務は当社の不手際でご案内できなくなりました。このようなことになってしまいましたこと申し訳ありません」と書かれている。


 一社だけなら分からなくもないが5社となると明らかにおかしい。

 

 ――だが、どうしてだ?


「まさか……、国家権力か!? 俺が就職することを拒んでいるのか? ……まぁ、そんなわけないよな……。常識的に考えて一市民を相手に国家が就職妨害をしてくるわけがない」


 きっと、何らかの問題が俺にあるに違いない。

 それか、たまたま運が悪かっただけだろう。 


「それにしても明日からすることが無くなったな」


 何かゲームでもするか。

 どうせ失業保険も6カ月は出るわけだし、半年間ゆっくりと捜せば問題ないだろうし。


「そうと決まれば、何か面白いゲームがあるかチェックだな」


 インターネットを起動させる。

 そして若い時にMMORPGで鍛えたタッチタイピングでキーボードを打っていく。


「――そういえば……」


 俺は仕事机の引き出しを見る。

 

「えっと……、【ミニチュアダンジョン】【机】【自宅】……と……」


 検索ボタンを押して、俺以外に机の引き出しがミニチュアダンジョンになっている人間を調べるが検索結果は0件。


「手掛かりは無しか……」

 

 次は【ダンジョン】と検索するが4786件とヒット件数が表示される。

 正直、全部を確認できない。

 ただし一つ気になったサイトがある。


「日本ダンジョン探索者協会のホームページか」


 とりあえずクリックする。

 まず画面に表示されるのは無駄に見栄えに凝った画面だ。

 すかさずスキップを押す。


 すると、役所のホームページのような画面が表示される。


「どうして市役所もそうだが……、公務員が関わっているホームページは見にくいんだろな」


 いつも思うのだが……。

 公務員が関わっている組織のホームページというのは、とりあえず最初の画面で詰め込んでおけ! みたいな作りになっていて画面がゴチャゴチャしていて分かりにくい。


 言わば何を訴えたいのかというコンセプトがはっきりしないのだ。


「いまはそれよりも……、これが重要だな」


 俺はダンジョンと書かれている項目をクリックする。 

 すると日本地図が表示されダンジョンの分布数が表示された。

 何と言うか、都会以外は満遍なくダンジョンが配置されている印象だ。


 その中から千葉を選ぶが俺の家の周辺にはダンジョンは存在していない。

 どうやら、俺の机のダンジョンは日本ダンジョン探索者協会は知らないようだ。

 まあ、当たり前だが……。

 

「まぁ、本当にダンジョンかどうかも分からないからな。次に探索者か……」


 クリックすると探索者向けへと書かれている。


「ふむ……。探索者になってダンジョン内でモンスターを倒すとレベルが上がるのか……。まるでゲームみたいだな」


 どうやらレベルが上がると身体能力が上がるらしい。

 それとダンジョン内に入ると自分の名前、年齢、レベルが表示されるようだ。

 

「つまり、俺の仕事机の引き出しの中にあるミニチュアダンジョンが本物なら魔物らしきモノを倒せば何らかのアクションが起きるということか……」

 

 身体能力が上がるだけでも十分いい。

 最近、少しだけ太ったせいで腰が痛いんだよな……。


「――ためしにやってみるか……」


 仕事机の引き出しを開ける。

 引き出しの中には縮小したダンジョンのような物が再現されており、1センチほどの置物が動いていた。

 

「とりあえず、罪悪感の湧かないコイツから……」


 1センチほどの木の置物のような物を人差し指で押してみる。

 プチッという音と、木製チップを押しつぶした感触が指先から伝わってくる。


 

 ――レベル877 狂乱の神霊樹を討伐しました。


 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。


「煩っ!?」


 思わず耳を覆う声が鳴り続ける。

 壁が薄いんだから、あまりにも音が煩いと怒られるんだが……。


「ようやくか……」


 しばらく「レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました」と言う声が鳴り響いたあと、突然静かになった。


「深夜だというのに迷惑すぎるな――、ん? 何だ……、これは……」


 視界がおかしい。

 何度か目を開けて閉じるが変わらない。


「何で……だ?」


 視界の左上には、レベルとHPとMPが――。

 さらに下には、4つのボタンが表示されていて、それぞれ【ステータス】【魔法】【スキル】【システム】と表示されていた。


「体は普通に動くよな……」


 いや、心なしか軽い気がする。

 お腹が出ているのは変わらないが……。


「レベル41 HP410 MP410? まるでゲームみたいだな……」


 それよりも問題は、視界に表示されている数字と幾何学的な文様だ。

 日本ダンジョン探索者のホームページをどんなに見ても分かるのは、ダンジョン内に入らないとステータスが見えないこと。

 そしてステータスを見るためにはダンジョンに入り「ステータス」と言葉にしないといけないことだ。


 俺みたくHPやMPが表示されるわけではないらしく、明らかに異質だ。




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