第2話 黄金姫と白銀姫





先の見えない深い夜の森で金髪青眼の少女と銀髪碧眼の少女が傷つきながら走っていた。




「はぁはぁはぁ、頑張っエリー!森の中なら隠れるところもたくさんあるわ!」


「お、お姉ちゃん、もう、足が、限界だよ。」


「っ!だめよ!ここで足を止めたら、奴等が来ちゃうわ!」


(なんで、こんなことに!)





彼女たちは城下町で買い物をしていたのだ、もうすぐ始まる学園で必要な物を買う為に。


彼女たちはグローリア王国の第二王女と第三王女、つまり王族である、その親である王は危険だからメイドたちに買いに行かせると言ったのだが双子の姉妹のうち姉であるレナリア・グローリアは自分で買いに行くと頑なに譲らず、王は仕方なく護衛を付けて買い物に行くことを許可した。


だが、それが間違いだった。


買い物が終わって護衛がお金を払っている間に店を出てしまった、そこを狙われた。


瞬く間に薬を嗅がされて彼女たちの意識はそこで途絶えた。


彼女たちはそのまま馬車に連れていかれ街を出てしまった。


この薬物は吸うと半日は目を覚さないものだった、だが、薬物に耐性のあったレナリアは馬車の中で目を覚ますと、即座に状況を把握し、反撃にでた。


「………………唸れ!雷龍ノ世界!」


即座にバレないように詠唱を終わらせると隣に同じように捕らえられているであろうエアリアを対象外にして無差別範囲攻撃魔法、雷龍ノ世界を放った。


雷龍ノ世界…無差別範囲雷撃魔法、レナリアが指定した範囲を雷が蔓延る領域にする。


レナリアの周りにいた誘拐犯たちは感電して動けなくなった。


その隙を突いてレナリアはエアリアを抱えると馬車を飛び出した。


そして右の手の平に光輝く片手剣を顕現させた。


「降雷せよ!カラドボルグ!……………雷鳴纏足!」


更に足に雷を纏うと即座に雷速の速さで逃げた。


後ろから怒号が聞こえるが無視をして更に加速をして走り出した。


「う、ううん、お、姉ちゃん?」


「あっ!起きたのねエリー!状況を簡潔に説明するわ!」


「う、うん、わかんないけど、わかった!」


「いい、すぐに理解なさい!私達は拐われたは、そしてここはよくわからない場所ね、もう夕方になっているわ、拐われたのはお昼だったから少なくとも四、いや五時間は過ぎているわね。」


エアリアはこくんと頷いた。


「ここで取れる行動は逃げるか敵を倒すかよ。」


「…………敵を倒すのは、敵がどのくらい強いか分からないから、避けたいかも。」


「うん、私も同感よ、あの時は不意打ちで攻撃を喰らわせたけど、すぐに回復していたわ。」


「…………お姉ちゃんの魔法を受けてそれくらいなら、近衛隊長クラス。」


「その犯人たちが少なくとも五人、勝てるかしら?」


「…………二対一もしくは二対二に持ち込めれば勝てる、それ以上は無理。」


「やっぱりそう思うわよね、じゃあ逃げ一択ね、さあ飛ばすわよ。」


私は更に加速をして逃げ去った、だが、


「ねぇ、お姉ちゃん。」


「何、エリー?」


「私達につけられてる、この首輪、何?」


「え?あ。」


焦っていたから気づかなかったが、二人の首には不格好な首輪がつけられていた。


二人はこの不格好な首輪など一つしか知らなかった。


「ねえ、お姉ちゃん、これってさ、じゃない?」


「奴隷、の首輪、っ!まさか!」


レナリアは最悪の可能性に気が付いた。


「うん、この首輪、探知機能、ついているよね?」


自分たちの行動は全て捕捉されているのだと。


そこから先はいたちごっこのようだった。


どれだけ遠くへ逃げてもこの首輪のせいで見つかり、捕捉され、すぐに追いつかれた。


逃げているうちに周りは暗くなってしまった。


「はぁはぁはぁ、ごめんエリー、もう、魔力が、」


「ううん、大丈夫だよ、ごめんね、お姉ちゃん、私の足が遅いから。」


「そんなの、関係ないわ、私は、あなたのお姉ちゃんよ。」


「!うん、だから、今度は私の番、私がお姉ちゃんを守る!」


すると声が聞こえた。


「いたぞぉ!捕まえろ!」


その犯人たちに対してエアリアは絶対零度の視線を向けると、レナリアのカラドボルグによく似た青く輝く片手剣を顕現した。


「狂い咲け、コキュートス!……………凍って、氷龍ノ世界。」


その時、誘拐犯たちや目の前が突然凍りだした。


氷龍ノ世界…無差別範囲凍結魔法、エアリアが指定した範囲を絶対零度の領域にする。


誘拐犯たちが戸惑っている隙に再び二人は逃げ出した。


逃げながら追いつかれたら迎撃をすることを繰り返していた、だが長くは続かなかった。


エアリアも先程の迎撃で魔力が尽きて魔力欠乏症の一歩手前まで来ていた。


「っ!頑張ってエリー!あそこに森があるわ!そこなら隠れる場所もたくさんあるはずよ!」


「はぁはぁはぁ、わかった、よ、お姉ちゃん。」


レナリアはエアリアの手を引きながら森に入っていった。


森の中は先が見通せないほど暗くなっており、入ることを躊躇させてくるようだった。


レナリアは唾をのみ、エアリアの手を引きながら夜の森に足を踏み入れた。





(だめだ、もう私もエリーも限界が近いわ。)


レナリアもエアリアも二人とも魔力欠乏症になっており、もう息をすることさえ辛かった。


「お、姉ちゃん、わたし、もう、」


「弱音を吐かないの!私達は生きて帰るのよ!」


弱音を吐きそうになったエアリアを叱咤するが、レナリア自身も弱音を吐きたくてしょうがなかった。


それでも、なんとか粘った、でも、疲れには勝てなかった。


二人して倒れ込んでしまい、足がガクガクと震えていた。


「…………ねぇ、エリー。」


「…………なぁに、お姉ちゃん。」


「…………私、たち、頑張った、わよね。」


「……うん、頑張ったよ。」


「………こんなに魔力使ったの、初めてよ。」


「………うん、私も。」


レナリアは涙を流しながら懺悔するように語った。


「………ごめん、ごめんねぇ、エリー、わたしが、わたしが、買い物に、行きたいなんて言わなければ。」


「…………ううん、違うよ、お姉ちゃんのせいだけじゃないよ?お姉ちゃんを止められなかった私も悪いの。」


エアリアも涙を流していた。


双子の姉妹は抱きつくと互いに頭を撫でていずれくるであろう最後の時を待った。


「…………ねぇ、エリー。」


「…………なぁに。お姉ちゃん。」


「…………あいつらに最後に一泡吹かせてやりましょう。」


「……………いいよ、賛成。」


二人は体を汚されるくらいなら死んだほうがましと思い、それなら一人でも多く道連れにしようとした。


「ああ、声が近づいてくるよ、エリー。」


「うん、そうだね、お姉ちゃん。」


二人は死にたいする恐怖を紛らすために互いに互いを強く抱きしめた。


「愛してるよ、エリー。」


「私もだよ、お姉ちゃん。」


二人の目から涙が一粒溢れたその時だった。


二人の目の前に突然と魔法陣が現れた。


「「え?」」


魔法陣は回りだし、そして前が見えないほど光り輝きだした。


「「きゃぁぁぁぁ!」」


しばらくして目を開けると、目の前には月明かりによって輝く白銀の髪に金の瞳を持つがいた。


「…………綺麗、だね。」


「……………うん、そうだね、お姉ちゃん。」


すると少年は目を開けて周りを見渡すとをみて呟いた。


「あ、りあ?」と。




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